君は幸い


「平和、だな…」


小鳥達のさえずりが心地良く鼓膜を振るわす。
つがいであるらしいその二羽は、仲睦まじく白梅の枝で寄り添っていた。
それを、昼下がりの柔らかな光が差し込む座敷から、
藍染惣右介は眩し気に目を細めて見つめていた。


「少々平和過ぎる気もするが」


何とはなしに、苦笑が漏れる。
それは彼の立場と性質ゆえ。

今こうして彼が居るのはが一人で暮らしている家の居間。
小さくひっそりとした庵のようなそれはとても簡素な造りをしていたが、
侘びしさや寂しさを与えるかと言えばそんなことはなく。
むしろ逆に安らぎや温もりといった温かな感覚を与える場所だった。
酷く彼女の人柄を表した住まいだと、ここへ来る度に彼は思う。
そして、こうして二人示し合わせて手に入れた休日の一時にもやはり同じことを思っていた。

ぴちち、と。
鳥の声につられて、ふと庭へとまた目線を戻す。


「『平和過ぎる』なんてそんな事を考える僕は…相当に傲慢な部類の人間になるのかな」


枝、華、葉、岩、水。
素人目にも見事な配置であることが判る、狭くはないが広くもない庭園。
四季折々にその表情を変えるその手入れの行き届いた箱庭は、
聞けば自身の手によるものらしく。


「…どう思う、?」


そしてそのはといえば。
縁側の柱に背を任せた藍染の片膝に頭を乗せて。
無防備にもすっかりと夢の中、だった。


「信頼されている、ということなんだろうけど…」


答えを求める意志の全く感じられない問いを重ねる藍染の表情は、
の寝息同様穏やかそのものだった。
藍染の膝の上に、青い畳の上に無造作に散らばった艶やかな漆黒の髪。
それがの呼吸と共に、幾筋か肩口から流れ落ちるのを見とめて藍染は、
ゆったりとその指先で掬い上げる。

指先が白い頬を掠める。
が小さく声を零す。
自然と口元が緩んだ。


「信頼され過ぎるのも複雑だと…そう思う僕は、やはり傲慢な部類の人間なんだろうね」


ふわりと風が通る。
そよ風に撫でられた梅の、その香りがふわりと部屋に入り込んできた。
白梅の淡く、甘やかな香り。
彼女の纏うその香り。





「僕は過ぎるほどに幸せだよ、




の寝顔と、先程彼女へと掛けてやった自分の羽織に柔らかな眼差しを落として藍染は、
ひだまりにとけるようにゆったりと目を閉じた。



藍染隊長最愛。
別館サイトは藍染さんへの愛故の産物でした、マジで。