「あら…」


師匠の使いで久方ぶりに戻らざるを得なくなった黒の教団。
用事も済ませ、ついでに定期の報告も済ませ、
特に行く所も無くなり何とはなくふらりと食堂へと足を運べば、
数カ月ぶりに顔を合わせた親友は、
「この親友不幸ォ!」とフライパン片手に菜箸を突き付けてくれた。


「はぁい」


そこで。
目が合った。
小さな女の子。
初めて見る子だ。
新しく見つかった適合者だろうか。
その瞳同様、黒く、真っ直ぐな髪。
遠目から見ても判る、東洋人特有の見目顔立ち。
おそらくは中国系か。
何とはなしに、手を振る。
女の子が大きな瞳をいっぱいに見開いた。
しかしそれも束の間。
白衣が、科学班の人間が少女と自分の対角線上へと割り込み、見えなくなった。


「もう、ありがたく飲み干しなさいよこの親友不幸っ!」


予測通り、テーブルへと叩き付けるように差し出されたチャイ。
その馴染んだ香りに一瞬奪われた視線を、
カップに手を掛けながらそっと先程の少女へと戻す。
白衣の男に手を引かれ、遠ざかって行く小さな背中。
と、短い足をもつれさせながらも少女がこちらを振り向いた。
黒い瞳が、揺らぐ。
何をか言わんと小さな唇が開いたが、それだけだった。


「どーしたのォ?」
「…随分と小さな子ね」
「ああ、あの子ね。
 ついこの間入って来た子よ。
 中国の出身なんですって〜、可愛いわよねぇ」
「ふうん…」
「どうしたの?」
「いや…あの子、私に何か言いたそうだったから」
「あらそう?」
「この野暮ったい任務が終わったら声掛けてみようかしら」
「ヤダ、その時はアタシにも声掛けてよ!」
「ふふ、そうね」





ああ、暢気に任務などに向かう場合ではなかったのに。


祈りの届かぬ神へ

この人ならと思った、けれどこの祈りは拙過ぎた。

title20 変わり種 No.02 ー 祈りの届かぬ神へ