黒の教団、中国支部。
一研究員である自分を名指しで訪ねてきたというエクソシストは、
確実に万人が一目で見惚れる極上の美人だった。


「こんにちは。
 初めまして、コムイ・リー殿」


優美な笑みと共に流暢な中国語で、広東語でなぞられる自分の名。

何故、自分なのだろうか。
どのような経路を介して自分の名は彼女の元に届き、
彼女はそこからどんな基準と評価でもって自分を抽出したのか。
その目的とするところは何か。
疑問はそれこそ多々ある。
しかし詮索したところでその解答を自分が得られることはきっとないのだろう。
彼女はエクソシストなのだ。
黒の教団において崇拝の対象ですらあるエクソシストは超特権的階級にある。
深刻にも、気まぐれにも、一研究員である自分の素性・経歴を洗うことなど、
彼女にとっては取るに足らない、行程の通過点にすらならない微々たる事象なのだ。
そして彼らの手足である一介の研究員、もっと言えば消耗品である自分に、
その事象の如何を問い質す権利など無い。


「私は、御覧の通り黒の教団所属のエクソシストでと申します」
「初めまして。コムイ・リーと申します」


そう、あの時。
村が夕焼け色の灰になったあの日。
涙で顔を汚した妹を引き摺り連れ去った白い団服の男達を、
止める権利も術も、自分には無かったように。


「単刀直入に申し上げます」


狂い叫ぶ自分の声など、焼け焦げた黒い空には響きすらしなかったように。





「───貴方の妹の話で参りました」





まるで聖堂に佇む白い聖母像のように静かな表情で彼女をそう唱った。


闇へと消えた夢

君を想う、ただそれだけで僕は生きてきた。なのに。

愛しい君とまた共に笑い合って生きること。
そのたったひとつの夢さえも冷たい闇へと吸い上げられ消え失せた。

title20 変わり種 No.04 ー 闇へと消えた夢