僕と彼女の
ペアリング


「襦袢っていいね」
「何、急に」


言えば、は「はぁ?」といった顔をした。

袖を通して、あとは羽織るだけ羽織った赤い長襦袢。
お飾り程度に結ばれた腰紐はほとんどその役目を果たしてはおらず、
結果、大きくはだけた合わせからはふくよかな白い双丘の谷間が堂々と覗いていた。
しかも褄下も褄下で胸元同様大きくはだけ、
その大腿から足先まで惜し気も無く露になっている。
まだ湯上がりのバスローブの方が慎ましいといった状態だ。
そんな妖艶な姿態でもっては、
ベッドの横向かいにあるソファに気怠げに足を組んで座り、
次の任務の資料へと目を通していた。


「いや、やらしくていいなぁと思って」
「アンタね…」


赤い襦袢に隠されずに晒された白い肌に、ちらほらと散る赤い痕。
自分がつい先程つけたばかりのそれ。
そのコントラストに、今更ながらもくらりと僅かながら目が眩む。
どくりと疼いた内側の微熱を悟られぬようにと、
努めて気楽な口調をこしらえて、へらりと笑ってみせた。


「次の任務、確かニッポンだったよね?
 僕にも買って来てよ、本場の襦袢を」
「あのねぇ…、襦袢っていうのは要するに下着なのよ?」
「知ってるよ」
「寝間着代わりにでも使うつもり?」
「そう」
「よしなさいよ、アンタ寝相良くないんだから。
 朝起きたらはだけてるどころか脱げてこんがらがってるわよ、きっと」
「まさかぁ」
「嫌よ、朝起きてみたら隣で恋人が窒息死だなんて」
「酷!」


真顔のその瞳は書類上の文字を追いながらも、
きっちりとクールでブラックなユーモアを添えて受け答えてくれる彼女。


「ちぇー、とお揃いがいいのに」


年甲斐にもなくむくれれば、穏やかに苦笑しては静かに書類から顔を挙げた。


「お揃いねぇ…」
「ペアルック、それは恋人達が一度は夢見て通る浪漫の浮き橋だよ!」
「いや、力説されても」


書類片手にもしっかりと遠くからビシリと裏手ツッコミを入れて寄越した彼女は、
しかしふと何かを思い付いたように、ツッコミを入れた形のままひたりと停止した。
そして一度こちらを見ると、ふむと利き手を口元に添えて唸る。
何だい?と言外にも尋ねるように首を傾げれば、
彼女は「お揃いねぇ…」とまるで独り言にも呟いて。
手元の書類をサイドボードへと置くと、ゆったりとソファから腰を上げた。


?」
「ちょっとじっとしてて」


赤い襦袢の裾をひらりと軽く翻して、
自分が横たわるベッドへと素足でひたひたと歩み寄ってきた彼女。
ベッドの端にその片膝が乗せられる。
ギシリとベッドが彼女の体重で小さく軋んだ。
彼女の片手がそっと耳の横へと置かれる。
僅かに視線が沈む。
見上げれば真上には綺麗な彼女の顔。
覆い被さるようにして真っ直ぐ見下ろしてきたその静かな眼差し。
それはそのままゆったりと下降して。


「───…え」


唇へと触れると思いきや。
彼女の柔らかい唇は鎖骨の少し下へと落とされる。
そしてそのままぐっと押し付けられたそれ。
これは。
これはまるで。
考えている間にも、ちりっと奔ったささやかな痛み。
ちゅっと、可愛らしい音が鼓膜を打つ。
やられた。
そうしてご丁寧にも離れ際にぺろりと舌先で鬱血の痕を舐めて顔を挙げた彼女は。





「ほら、これでお揃いね?」





ちらりと片前襟をはだけさせて自分の胸元のそれを示すと、したり顔で笑った。



このSSは245000hitsのキリリクを下さった誘世サマヘ。
コムイ夢以外に特に指定が無かったのでこんな感じに。
少しでも楽しんで貰えれば嬉しいです!

image music【君がばらまいた星のせいで】_ patricia.