シーツの波
浮かぶ蜜味の罠
「本当、神田って男にしとくには勿体無いわよね」
もはや存分に皺になったシーツにくるまって女は、猫のように笑んでそんなことを言った。
「あァ?」
隣でうつ伏せに寝そべる女。
。
その8割方の独り言に、まるで悪態にも相槌を打つ。
女が涼やかな声を立てて笑う。
何が可笑しい。
顔が凶悪に顰まったのが自分でも判った。
「白い肌、黒く長い髪、切れ長の目…美女の条件を尽く満たしてるわよ?」
普段は高く結い上げてある髪も、
今はすっかりとこの女にほどかれ白いシーツの上へと無造作に散らばっている。
『最中、髪が肌を撫でて心地良いから』。
そんなことを言っては毎度、この女はまず真っ先に自分の髪をほどくのだ。
そのしなやかな指先で。
解いて、梳いて、絡めて。
そう、こうしていちいち無駄に甘やかな仕草でもってこの髪に口付ける。
「ふん、くだらねぇ」
一蹴。
戯れつく女の指先を引っ掴んで、白いシーツへと張り付けた。
「…相変わらずがさつねぇ」
乱暴な所作でもって女の身を包んでいたシーツを剥ぎ取る。
露になった女の白い肌。
艶やかな肢体。
一方で呆れたようなその顔と声。
この女には羞恥心ってものがないのか。
それとも俺の方こそが今更なのか。
俺こそが、女々しいのか。
否。
そんなことあってたまるか。
しなやかなそれを覆い隠すように身を倒し、その首筋に歯を立てる。
「こら」と、まるで幼子に言い聞かすような口調で嗜められた。
無視して、指先を太股へ滑らせる。
そのまま無遠慮にも、押しのけるように付け根から強引に脚を開かせ身体を割り込ませた。
鼻に掛かった甘やかな溜め息が鼓膜を直に震わせる。
もう幾度となく入り込んでは吐き出したそこに自身を宛てがう。
ぐっと腰を落とす。
女が僅かに身を捩った。
「ん…っ、まだする気?」
「だったら何だ」
「私の意志は何処にあるのかしらと思って」
「知るか」
深く角度をつけて、噛み付くように口付ける。
「───お前がくだらねぇことを言うからだ」
…ああ、実は美人なの気にしてたの?
覆い被さってきた俺を受け止めながらは、
可笑しそうに笑ってそんなことをほざいた。
結局は、気付けばいつだってその掌の上、甘い罠の中。
神田夢は相変わらずやらしいなぁ…。
というかコレって隠した方がいいんスかね。
image music:【丸の内サディスティック】_ 椎名林檎