光色の恋


「…ああ、ラビ」


澄んだ柔らかな光がこの瞼を撫でて。
ゆるゆると浮上する意識。
身を包む温もりと微睡みに名残惜しさを覚えつつ、陽光に促されて重たい瞼を上げた。


「おはよう」


目を覚ませば、途端に映る綺麗な笑み。
普段周囲に振りまくそれとは少しばかり種類の違う、至極穏やかなそれ。


「…おはよーさん」


寝ても覚めてもの声。
なんて。
ああ、なんて幸福な。


「あらあら…、ラビったら朝弱かったの?」


くすくすと、せせらぎを思わす涼やかな声が鼓膜をくすぐる。
微睡み特有の重くて仕方無い瞼を何とか押し上げれば、
そこには傷一つ無い白く滑らかな肌と長くしなやかな指先。
掠め取るようにこの頬を撫でたそれ。
ああ。
目が、眩む。
甘い目眩に任せてもうこのままもう一度目を閉じてしまおうかと目論むが、
そんな寝惚けた思考などどうやらお見通しらしい。
「ほら、起きて」。
耳元も、呼吸が感触を持つような位置で囁かれる。
あまつさえくしゃりとこの髪を撫でられてなんてしまえば。


「へへっ、朝一番でに頭撫でられたさ〜」
「は?」
「えへへ〜」
「変な子ねぇ」


どうしたって緩まざるを得ないこの口元。

心底呆れた様子ながらも、再度やんわりと撫でてくれる温かなの手。
まるで姉弟みたいな馴れ合い。
下手をすれば母子のような戯れ合いだ。


「ラビ」


実際、自分ももしっかりと寝間着を着てるのだから、
惜しむらくもいかがわしい事情は無いし、艶めいた情事だって無い。
現在と事の次第は至って単純。
昨日の夜、俺がの部屋に枕を横脇に抱えて押し掛けて、
「久々だから、かまって〜」とそのままベッドにダイブ。
「こーら」と苦笑したの表情を身勝手にもお許しととって、
またで全てを見透かしつつ、
敢えてそのまま押し切られてくれたりして、
こうして一夜を二人一つのベッドで過ごしたのだった。


「良く眠れた?」
「んー…、ぼちぼち」


もそもそとシーツの波を引きずって、へと腕を伸ばす。
少々強引に引き寄せ、その懐へと顔を埋める。
もうこうなったらついでだ、とその細い腰にもがっちりと両腕を回した。
すると「まったく幾つになったのよ…」と、
頭のてっぺんに呆れた返った甘い声が降ってくる。
同時にふうっと柔らかな溜め息が髪を撫でて。
それすら心地良くて、更にぎゅっと抱き込めばしなやかな指先がこの髪をゆったりと梳いた。


「…何ていうかさ」
「うん?」


ってばホント、俺の事を何だと思ってるんだか。


「俺的にはさ、睡眠にはやっぱ適度な疲労感が必要だと思うワケさ」


後輩?
弟?
でなきゃ人懐っこい犬?
何にしたってお子さまの扱い。
"男"と認識しての扱いじゃない。


「今度は服無しで寝ような〜」


いい加減、意識ぐらいはして欲しいんだけど。
そんな一抹の焦燥は深い所へと押し込めて、努めて軽い口調でへらりと言う。
すると。





「ふふ、いいわよ」





やはり穏やかな声色が、甘い口付けと共にこのつむじへと注がれた。





「───…今からは?」
「あらやだ、速攻でつけあがってきたわね、この子は」


気付けば、を見下ろす位置にある自分の顔。
しっかりと俺に組み敷かれている
見上げてくる、「単純ねぇ」と言わんばかりの綺麗な呆れ顔。

不可抗力だ。
不可抗力なんだ、これは。
がそんなトンデモ発言なんてするからいけないんだ。





「大体、『今度は』って言ったのはラビ本人でしょうに」





ほんの数十秒前の自分にとって代わらせろと、その詰めの甘さを激しく後悔した。



ラビは『弟扱い』と口を尖らせながらも、ヒロインの事を『姉扱い』から抜け出せてないんですよ。しかもラビ自身それに気付いていないからヒロインは敢えてひらひらふわふわと構えてるワケです。

光は白色光、無色透明。
屈折率を変えることで初めて生まれる虹の色。
錯覚が全てを生み出す、そんな恋。

image music:【FLYING TEAPOT】_ Seatbelts.