リバース
☆  
ラバース


「───あっれ?」
「あ、ラビ」
「よぉ、リナリー。
 …どったの、そのカッコ?」
「えへへ、似合う?」


久々の本部帰還のついでにと顔を出した食堂に居たのは、
の団服を着込んだリナリーだった。


「ソレ、の服だよな?」
「うん、そう」


もう随分と久しいジェリーちゃんの飯を、
てんこ盛りにも盛ったトレーを持ってリナリーの前へと腰を降ろす。
その量に、大きな瞳と長い睫毛とぱちぱちさせてリナリーは、
「アレン君ほどじゃないけど…そんなに食べるの?」と首を傾げた。
それに「ま、育ち盛りだかんね〜」とおどけて返す。
「ピーターパンならぬ永遠の成長期?」とリナリーは可笑しそうに笑った。

その仕草と物言いに、ふっとの面影が重なった。


「で、さ。
 なんでの服なんて着てんの?」


リナリーはのことを姉のように慕っている。
それはリナリーの暗い過去においてが光明となったかららしいのだが、
詳しい事までは知らない。
とにかく、リナリーはに懐いてる。
そしてもリナリーのことを妹のように可愛がってる。
で、そのリナリーがそんなの服を着て、黒の教団の食堂で俺と飯を食ってる。
はて、何のこっちゃ。
エビフライを頬張りながらうーん?と首を捻れば、リナリーは楽しげに口を開いた。


「気になる?」
「気になる気になる」


もう気になって食事も喉をつかえて大変さ。
言って、しっかり咀嚼したエビフライをわざとらしくごっくんと飲み下せば、
リナリーは人が見れば十中八九可愛いと評するだろう笑顔で言った。





「今日一日、と服を交換しようってコトにしたの」





思わず、元・エビなフライが胃から飛び出るかと思った。





「…わ、ワンモアプリーズ?」
「だから。今日一日お互いの服を交換して過ごそうってコトにしたの」


服を交換。
と。
リナリーが。


「やっぱりの方が背高いから、丈とか…あと胸とか余っちゃうんだけどね」


言って、小さく溜め息を吐いたリナリー。
確かに本人の自己申告通り、体格差からか肩幅と袖口が少々余ってる。
胸元も多少物足り無さがある。(なんて言ったら確実に黒い靴で踏み抜かれるな、うん)
そう、リナリーが着てるのはの団服なのだ。
コート下のタイトスカートに入った大胆なスリットからは、
艶かしい大腿付け根の白い肌と黒ガーターベルトのコントラストが覘く、
(ま、リナリーは付けてないみたいだけど)
エクソシストの中でもそのセクシーさでは定評のあるの団服なのだ。
そして。


「…つーコトはさ」
「うん?」
ってば、今リナリーの服着てんだ?」
「うん、勿論」


リナリーの団服といえばミニスカート。
どうしてか上手い具合に中の見えないことで有名な、あの超の付くミニスカート。





「───ごっそさん」





これが見ずにおらでか否おれまい。





「んじゃ!」


自問に対する自答はとにかく迅速だった。
それこそ句読点すら追い付けない反語だった。
即断即決。
勢とは利に因りて権を制するなり。
なんて、無駄にカッコつけてみる。
要するに『先を越されてたまるか』ってコトなんだけど。


「まだ大分残ってるみたいだけど、ご飯?」
「細っこいリナリーにプレゼント〜。、部屋?」
「もー、ジェリーちゃんに怒られるよ」


結局、エビフライ1匹しか手を付けなかったランチ。
このままこのほかほかの飯を残して食堂を去れば、
ジェリーちゃんの熱い叱責は免れないだろう。
しかし事は可及的速やかな対応を要する。
すなはち、この無駄に広大な黒の教団内部からを居場所を突き止め見つけ出し、
且つ確保し徹底的に隠し通さなければならない。
のミニスカート姿なんざ他の野郎共に拝ましてたまるかってんだ。
そうだ、思い立ったが吉日だ。
に教えて貰った東洋の訓戒を胸に、
出陣とばかりに、意気込んで一歩を踏み出す。

と。


「あらあら…ジェリーちゃんに泣かれるわよ?」


背後から鼓膜を振るわせたのは、久方ぶりに聞くその人の声だった。


「あ、
「───ッ!!?」
「な、何?」


勢い良く振り返った其処には確かに
数カ月ぶりに見る、控えめながらもぎょっと目を見張ったの綺麗な顔だ。

が、しかし。


「………アレ?」
「『あれ』?」


期待したミニスカートは、どうしてかスマートな旗袍だった。


「…チャイナ?」
「ああ。今日は一日リナリーと服を交換しようって話になって」
「…リナリー?」
「私、団服を交換したとは言ってないもの」


違いない。
確かにリナリーは、『今日一日、と"服"を交換しよう』云々としか言ってない。

要するに、だ。


「………俺の早とちり?」
「よね」


思わず、脱力。
もといがっくりと肩を落とす。
それも盛大過ぎる溜め息と一緒に。
上げたばかりの腰をどっかりと椅子に落とせば、
視界の中に戻ってきたできたてほかほかの飯が「ざまーみろ」とでも言ってるようだった。


「ああ、もしかして私のミニスカート姿でも期待したの?」


…ぐうの音も出ないとはまさにこのことか。

黒地の旗袍。
さすがにリナリーのものだけあって図柄は可愛らしい梅だ。
チャイナドレスの詳しい分類なんて知るはずもないから何とも言えないが、
長袖に高い襟と、生地のせいもあってかゆったりとしたそれは、
普段から身体のラインがくっきりと映る服を好むからすれば、
ストールのアクセントも相まってか、実に新鮮さを感じる姿だった。


「ご期待に添えなくて悪かったわね」
「…うんにゃ。
 まぁミニスカは見れんくて心底残念だけど、チャイナも新鮮でオッケ〜」
「ふふ、そう言って貰えると嬉しいわね」


お洒落なカップとソーサーに注がれたチャイを持って、
リナリーの隣へと腰を下ろした
そういえば『ジェリーちゃんのいれたチャイは絶品』といつだったか言ってたっけか。
俺はどうにもあの飲み物にあるまじきスパイスの後味が苦手なのだけど。
今度またチャレンジしてみるか。
もしかして飲めるようになってるかもしれないし。
まぁ、そういって前回も飲み切れなかったような気もするけど。


「ああ、そうだ。
 今ちょうど神田も帰って来てるから、ラビ達も服交換してみたら?」


いや、そんなん絶対ユウが応じないから。
びしりと裏手ツッコミを言えばとリナリーは、
「「じゃあアレン君とか」」なんて見事なユニゾンを披露した。



ラビ夢というかリナリー夢というか…(笑)
『コ・・・コスブレとか?』とのネタから。
つか、ヒロインのミニスカ姿…そ、想像つかねぇ…! 想像を絶してるよ。

image music:【未来生活】_ capsule.