ロマンチスト
エゴイスト


「───ん…」


シーツの上へと散らばる艶やかな黒髪。
散らばった黒髪の映える白い肌。
甘く艶めく形の良い唇。
誰だ?
か。
そうだ、隣に横たわり眠ってるのはだ。
此処はの部屋で、ベッドの上で、今は朝に近い夜だ。


(4時…、中途半端ー…)


何となく髪を掻き回す。
回して、ひたと止める。
思わず隣の眠れる美女の横顔を覗き込んだ。
静かな寝息。
穏やかな寝顔。
どうやら起こさずに済んだらしい。
でなければ寝たフリを続行してくれたか。
俺にその成否を見抜く術は今のところ無いから、
男のメンツとかプライドとかを保つ形で起こさずに済んだことにした。


(しっかし、ってばホンット美人だよなー…)


身内の色目を抜きにしてもそう思う。
もとい、身内の色目など無いものとしてしまうレベルなのだ、のそれは。
『外の造りだけは圧倒的』というユウの言は酷く的を得た表現だと思う。
首から上だけでなく首から下も個々が完璧な造形を持つパーツ。
それらが完全なシンメトリーに配置されている。
まるで古代の白い彫刻を思わすその美貌。
しかし普段の飄々としながらも穏やかなその物腰が、まとう雰囲気が、
整い過ぎているが故に冷ややかさを放つ『圧倒的』な美貌を、
本当に良い意味で、良い具合に中和しているのだ。
そう、だからこそ。
"動かない"はとても"無機質"に見える。
そしてそれは、時折が一人で居る時に見せる酷く無感情な横顔と重なって。

自分の知らないが居るのだと、ひしひしと感じさせられる。


「…


判ってるんだ、痛い程に。

どんなに服を脱いだって。
どんなに距離を無くしたって。
心を丸裸にすることはできない。


「俺さ」


もっと知りたいのに。
もっと触れたいのに。
もっと暴きたいのに。


「俺のコトさ」


その団服が邪魔だ!
その白い肌が邪魔だ!
その綺麗な笑みすらも邪魔だ!
身体の中だけじゃなくて、その心の奥まで入り込んで俺の存在を刻み込みたいのに。


「なぁ、


起きて。
目を開けて。
俺を見て。
声を聞かせて。
俺の名前を呼んで。
抱き締めて。
俺に抱き締められて。


「早く、もっと、俺のコト好きになってよ」


全部とは言わないから、誰よりもその多くを俺に晒して。





「───這い上がれなくしてやるから、俺のドン底まで堕ちて来いよ」



これ以上何処に堕ちればいいって言うのよ、ねぇラビ?

image music:【美しく燃える森】_ TOkYO SKA PARADISE ORCHESTRA.