ヴィーナス


はまるで古代の真白なヴィーナスのように。
何を言わずとも、小さな言葉一つからその多くを汲み取ってくれる。


「あのね、……その」
『アレン君に何かあった?』
「! …うん」
『彼のイノセンス?』
「うん…ねぇ、
 "武器イノセンスが疲れる"って、もそういうことがあるの…?」
『あるわ』
「!」
『要するに、イノセンスの消耗が直接身体にくるのが寄生型なんだけれど、
 私の場合は体中の血液が鉛のように腐って、
 身体中が軋んで呼吸もまともにできなくなるわね』
「っ、アレン君の左手…触ったら、ボロボロって…っ」
『使い過ぎてるのね』
「でもアレン君、大丈夫だって笑って…!!」
『アレン君らしいわね』


震えの止まらない声。
溢れ返りそうな何かを押しとどめるのに必死で、上手く呼吸がつげない。
彼の名前を口にしようとすると喉の奥が蓋をして胸を引き攣らせるの。


、どうしよう…っ。
 もしアレン君が、アレン君が死んじゃったりしたら…!!」


電話越しの嗚咽とはどれほど耳障りなものなのだろうか。


『大丈夫よ、リナリー』


けれどきっと。
私の嗚咽なんてとうに聞き慣れてしまっているは。


『アレン君は死んだりしないから』


こうして昔から変わらぬ穏やかさの全てでもって、
私が欲しい言葉を、欲しい時に、欲しいだけ与えてくれる。


「でも…っ」
『夢を見た?』
「!」
『コムイも時々見るみたいね』
「兄さん、も…?」
『そう。私が"死んでいる"夢を』
「私、は…」
『大丈夫よ。アレン君も私もリナリーやコムイを残してしんだりしないから』
「どうして…?」


ああ、きっと。
電話越しのは今、酷く楽しげに笑ってる。





『だって愛しちゃってる人を残してなんて、死んでも死にきれないわよ』





そしてその膝の上では、兄さんが静かな寝息を立てているのだ。





『また悪い夢をみたら連絡してらっしゃい。
 あと悪い夢をみなくても連絡ちょうだいね』
「うん…っ。
 、大好き」
『私もリナリーのことが大好きよ』



リナリー愛。
むしろアレンvリナリーに溺れるような愛を。
↓は私的リナリーソング。

image music:【Castle imitation(album version)】_ 鬼束ちひろ.