Sister.
「ー、後で僕の実験手伝って」
「やーよ。
何が悲しくてアンタのマッドサイエンスになんて付き合わなきゃなんないのよ」
室長執務宅上で山積みになり、もはやクモの巣さえ張っていたりする書類を、
器用にも崩さずに持ち上げ退けて、しっかりとスペースを作り腰を降ろした。
そしてそのままに優雅に脚を組むと、
先程退けたばかりの書類の束をまた膝の上へと戻しパキパキと目を通し始めた。
それはコムイを気遣っての行動なのか、はたまた興味本位の所業なのか。
まだ教団に来て日の浅いアレンにその判断はつかなかった。
「コムイ室長とさんって仲が…良い、のかな…?」
「うん。兄さん曰く『世紀の大親友』だって言ってたわ」
「へ、へぇ…」
『世紀の大親友』。
アレンからすればお茶目な狂人と教団きっての常識人の組み合わせ、
もとい同じ教団古株という以外に何の共通項も見い出せないような二人である。
どこか釈然としない面持ちで首を傾げたアレンにリナリーはふわりと苦笑してみせた。
「…前、話したよね」
「え?」
「私が一時期おかしくなっちゃってたこと」
「うん…」
はい、と。
いつの間にやら科学班の給湯室に増えていたアレン専用マグカップに、
温かいココアを注いで持って来たリナリーは、
手渡すとそのままアレンの横へと腰を降ろし、静かに口を開いた。
「兄さんが迎えに来てくれるまでね、私を守ってくれたのはなの」
「え…」
「暴れるか、でなければうわ言を繰り返すばかりの私の元を訪れては、
何を言うでもなく、ただ黙って、優しく髪を撫でて傍に居てくれたの」
不思議よね。
気が触れてベットに繋がれるまで一度だって会話したことなんて無かったのに。
なのに髪を梳いてくれる手付きはお母さんみたいに優しかった。
言ってリナリーははにかんだように笑った。
「私が今こうしてアレン君と話せるのはのおかげ」
リーバーに泣きつくコムイ、コムイに泣きつかれて泣きそうになってるリーバー。
そしてそんな二人を丸っきり無視し、ふむふむと手際良く書類を捌いていく。
そんな三人の日常的茶飯事を視界に収めてリナリーは更に続けた。
「これは後で兄さんから聞いた話なんだけどね。
は私の状態をこっそり兄さんに報告してくれていたらしいの」
「え、それって…」
「うん。服職規定違反なのにね。
教団内部の、しかもエクソシストに関する情報を教団外部に漏らすんだから、
いくらエクソシストだからって見つかったらただじゃ済まないのに…。
それでも私の元を訪れては兄さんの所へと足を運んで、
ずっと兄さんに私の事伝えてくれてた」
『大丈夫よ、リナリー。
もうすぐ貴女の大切な人が貴女を迎えに来るから』。
兄さんが科学班室長として迎えに来てくれたその三日前に、
やはり任務前に自分の元を訪れたが、初めて掛けてくれた言葉を思い出す。
「兄さんが科学班室長になって教団に入って来てくれて、私が正気を取り戻してからもね、
私のリハビリに根気良く付き合ってくれたの。
それに武術指南もしてくれてね。
私が"黒い靴"をここまで扱えるようになったのものおかげ」
『もうすぐ、ここが貴女の"おうち"になるわ』
「だから兄さんとは自他共に認める親友でね」
『だから…』
「私にとっては大切な"おねえさん"なの」
『───次に帰って来た時は、「おかえり」って…その可愛い顔で笑って出迎えてね?』
「何でさー。友達でしょ? 親友でしょ? 婚約者でしょ?」
「だから何よ。何なら婚約解消する?」
「ぎゃー! ちょっとリーバー君、聞いた!? 今の辛辣な台詞!!
恋人にあるまじき!!」
「はいはい聞きましたよ。聞きましたからさっさと仕事して下さい」
「うわぁん、リナリー! とリーバー班長がイジメるよぅ!」
「喧しい。いいから仕事しなさいよ。
あ、リナリー。コーヒーのおかわり貰える?」
「うん。リーバー班長は?」
「おお、頼む」
「ボクも!」
「だからアンタは仕事しなさい」
専用の、コムイ贈呈である瀬戸物のマグカップと、
コムイ専用の、誕生日にと一緒に贈ったうさたんマグカップを
受け取ってリナリーは。
「甲斐性無しの旦那なんて嫌よ」
「判ってるよ。目指すは関白な亭主!」
「…無理じゃない?」
"兄さん"と、未来の"義姉さん"を振り返り、酷く幸せそうに微笑った。
今週のジャンプを読んで、もうコムイ兄さんの株が急上昇ですよ!
なんで、そんな夢を書いてみたり。
あ。"婚約者"ってのはコムイ夢でのみの設定です。一応。
千年伯爵を倒したら結婚しようって感じで。
image music:【同じ夜】_ 椎名林檎.