ラブ・マジック


「───…」
「あ、。おかえりー」


任務から帰還後、報告書を携えてそのまま科学班に顔を出したは、
コムイを視界に収めたや否や、彼女にはあるまじくも見事に目を見開いて固まった。
呆気。
今の彼女の状態を二文字で表すのならまさにそれである。


「ん? どうしたの?」
「髪…」
「ああ。ちょっくら切ってみました☆」


背の中頃まで伸びていた黒髪。
手入れこそ特にされてはいなかったが、東洋人特有の真っ直ぐでクセの無い髪は、
男にしておくには勿体無いとが日頃からいじってやっていたものだが。
それが今や肩口で触れる程度にまでその長さを失っていたのだった。


「あれー、何かもの凄く驚いてるね」
「そりゃ驚くわよ」


周囲から注がれる好奇の視線にようやく我を取り戻したは、
楽しげになんて笑むコムイに半眼でもって問う。
「急にまたどうして?」。
言えば、待ってましたとばかりの笑みを返して寄越したコムイに、
ああ敢えて布石に躓いてやるべきじゃなかったかしら…と彼女は少しばかり後悔した。


「まぁ髪を伸ばしてたのは願掛けみたいなものだったからね」


『願掛けだった』と、コムイは言う。

コムイの願い。
それは最愛の妹であるリナリーのために黒の教団へと入団し、
リナリーの傍に居られる、一緒に暮らせる、それ相応の地位に就くこと。
その悲願はの力添えもあって3年という月日をかけて、
科学班室長という形で達成した。
成就し、また色々と落ち着いた今、切った。
つまりはそういう事であるらしい。
とりあえずは納得できる内容である。
しかし今一つ腑に落ちないと表情で訴えて寄越したに、
相変わらず鋭いと、その勘に頼らない彼女の演繹力にコムイは改めてこっそり感服する。
そして同時に(ならば余計に、ここは先手必勝だね)と、内心ひっそりと深呼吸した。


「新しい"お願い"のために切ってみました」
「新しい願い?」
「そう」


鸚鵡返しにも不思議そうに短くなった髪先を指で弄ぶ





「───が僕の事を好きになってくれますよーに、ってね?」





その指先を捕らえ口付けを落としコムイは、
先手と牽制の意を込めて、公衆の面前にもささやかな告白を送った。





「どう?」
「……そうね、髪の長いコムイは凄く好みだったわ」
「え"ぇ"ッ!?」


コムイの新たな願い。
つまりそれは、ようやく彼が彼自身の人生を歩み出したということで。
それがに判らぬはずもなく。





「───今のコムイもなかなかに好みよ?」





その下心ごと受け取るようには、コムイの口付けたそこに唇を寄せて微笑った。



コムイ兄さん熱がきてます。マジで。
結局ディグレ小説は買ってないんですが、後で妹に読ませて貰おうと目論んでます。

image music:【彼女】_ サスケ.