LOVERS.


「兄さん、お誕生日おめでとう!」


妹の満面の笑みに、毎年の行事ながら目の奥をぐっと熱を持つのを抑えられなかった。


「ありがとう、リナリー」


有り余る幸福を、努めて押さえ込んだむず痒い口元を気取られぬよう、
要するに照れ隠しにも、最愛の妹の頭を少々大雑把に撫でる。
「えへへ…」と心地良さげに目を閉じたリナリー。
その背後では、最愛の恋人が去年のそれと変わらぬ穏やかな笑みを浮かべていた。


「また老境への一歩を踏みしめたわね?」
ー…」


これもまたお約束のお手軽な皮肉。
言葉同様、楽しげで少々意地の悪い、
しかしやはりどこまでも穏やかな笑みをその口元に乗せて彼女は微笑う。
つられて妹も声を立てて笑った。
ああ、幸せ過ぎて目眩でも起こしてしまいそうだ。


「ふふ、誕生日おめでとうコムイ。
 そしてこの日に生まれてきてくれた"必然"に感謝を」


言って、頬へと寄せられた形の良い唇。
その温かで柔らかな感触に、胸の奥がぐっと甘ったるく重くなる。
しかし湧いて出そうになった欲に蓋をして、「ありがとう」と答えてそっと頬を摺り寄せた。
鼻先の掠めた彼女の黒い髪がふわりと甘く香った。


「…もうっ、そういうのは私が部屋に帰ってから二人きりでやって!」


気付けば彼女の腰へと添えていた腕を、びしりと指差しリナリーが甘い沈黙を破った。


「ああ、ゴメンゴメン」
「ごめんね、リナリー。
 私としたことがうっかりしてたわ」
「二人して…、見てるこっちが恥ずかしいんだから」


公然とノロケる僕らに、むしろ妹が頬を染めて照れる。
それじゃあイチャつくのは後にしましょうか。
言っては僕の腕をほどくと、そのままこの手をリナリーへと手渡した。
受け取ったリナリーに引かれるまま、
この日のために特別にセットされたテーブルへと向う。


「ジェリー曰く、『今年もまた自信作よ♥』ですって」


目の前に広がる豪奢な晩餐。
自分の生まれた日に、親友が『お誕生日サービス』と作ってくれた豪勢な料理を、
最愛の妹、最愛の恋人、そんな愛おしい2人と囲むことのできるこの余りある幸福を、
一体どう表せば良いのか。


「今年のプレゼントも自信の一品なの」
「リナリーが『絶対コレ!』って譲らなかったものね?」
「へぇ、それは楽しみだなぁ」


僕が居て。
妹が居て。
彼女が居て。
だからこそこの世界がある。
もしリナリーとが居なければ、
僕にとってこの世はこの世であるというだけのただの事象に過ぎないだろう。
それぐらいに今の僕にとって2人は、世界の全てと言っても過言ではないのだ。


「それじゃあ、兄さんの27歳の誕生日に乾杯!」
「…うーん、そこは年齢を入れないでおいて欲しかったなぁ」
「三十路まであと3歩ね」
…!」
「ふふ」


僕が居て。
妹が居て。
彼女が居て。
そして愛しい世界で、3人、笑い合う。


「そうそう、今年のケーキは私とリナリーのお手製よ?」





妹の、彼女の、そして自分の笑みに、
自分がどれほど幸福な男であるかを思い知る。





「リナリー、
「何、兄さん?」
「どうしたのコムイ」


その幸せを更に知らしめるように呼ばれる自分の名前。
そんな些細な空気の振動にすらいちいち目眩のような幸せを覚える自分は、
もうきっとこの2人無しではまともに呼吸もできないのだろう。





「───愛してるよ、リナリー、





美味しくケーキを食した後、2人から贈られたのは大きなウサギのマグカップだった。



コムイ兄さん、ハッピーバースデー!!
ってなわワケで兄さん夢ですが、敢えて&リナリーな過去話にしてみました。
甘いSSは余所様で楽しませて貰おうと思いまして…(笑)

image music:【MOTHER】_ 高橋哲也 from APPLESEED.