HAPPI*NESS


「朝っぱらから随分と面白い顔してるのね?」
「んー、"シアワセ"って何かって考えてた」


言えばは一瞬だけきょとりとして、
けれど次の瞬間には「青少年の悩みねぇ」と髪を掻き揚げ可笑しげに笑い出した。


「んな笑うことねェじゃん」
「いや、若いなぁと思って」
も若いさ」
「まぁコムイに比べればね」
「………」
「今更ねぇ」


自分以外の男の名をその唇がなぞる度にムッツリとむくれてやまないこの顔の筋肉。
そんな己の拙さに溜め息も出るってもんだが、
それだけ自分がにゾッコンなんだってことを物語ってるようで、
実はそれほど悪い気もしなかったりする。
惚れた弱み、ならぬ惚れた誇りってヤツだ。
そんなノロケたことをつらつらと考えていれば、顔から筒抜けだったのか、
「それで、ラビにとっての幸せって?」と、はとても楽しげに話の先を促した。


「ぶっちゃけた話、前の俺にとっちゃ、
 シアワセってモンがどんなモンかなんざ全くもってサッパリだったさ」


ま、実は今も良く判んねーけど。
言って後ろ手にも頭を掻けば、は俺の話に聞き入るように目を瞑る。


「でも最近はやっと、ふっと考えが巡るようになった。
 一瞬一瞬の些細な感情の起伏が連なって気持ちイイ方向に続くと、
 人はそれを総合的に判断して、シアワセと認識するんじゃねェか。
 でなきゃそんな気持ちイイ連鎖を誰かと共有してるかのような錯覚を、
 まるで感情が結ばれてるような錯覚をシアワセと呼ぶんじゃないかって。
 まぁどっちにしろ、コレは主観的なモンで。
 けど、客観的なシアワセってのもやっぱ存在するワケで。
 他人と比較して客観的に自身が優れてる、恵まれてる。
 コッチのはめっちゃ変動的で流動的だけど、そういうシアワセってのもアリだしー…」


脳みそも普段はあんまし使わない部分をフル動員する。
"覚える"のが俺の専門。
"考える"のはやコムイの専門だ。
頭を使うという点では同じようでいて、脳みそは違う部分を使ってるから、
慣れないことをすればどうしたって苦戦をしもする。
今まで覚えてきたモンを小難しく繋ぎ合わせてみるが、やはり上手くいかない。
ああ、俺の頭、主に前頭葉も前端部がそろそろプスプスと音を立て始めそうだ。


「そんなに難しく考える必要は無いんじゃない?」


の細くしなやかな指がこの前髪をくしゃりと掻き揚げる。
露になった俺の額。
間近にあるの穏やかな双瞳。


「例えばそうね…」


ゆったりと笑みを深める、形の良い薔薇色の唇。





「───私はこうしてラビと居られてとても幸せよ」





そうして、額に触れた柔らかで温かなその感触に。





「18の誕生日おめでとう、ラビ」





ああ"俺のシアワセ"って何て贅沢でお手軽、とそう思った。



うっかり勘違いで1日遅れとなったラビ・ハッピーバースデー夢。
何で私、13日だなんて思い込んでたんだろ…コムイ兄さんが6月13日だからか?

とりあえず、神田と違って小難しいことも結構考えてたりするラビが書きたかったので満足。