マーマレード
シュガー


「はぁい、みんな。
 今日も不健康に牛馬の如くこき使われてる?」


そんな極上美人のにこやかな笑みに返ってきたのは、
青白かったり土気色をしたりな死屍累々の合唱じみた呻き声だった。


「あら…、どうしたの?
 今日はまたいつになく机の上が荒れてるじゃない、リーバー班長」
「いや、それが…」
「まったく、だらしないよねー」
「アンタがやったんだろ、アンタがッ!!」


室長必殺・責任転嫁。
濡衣を訴え声を張り上げるリーバーの様子も何処吹く風。
空になったフラスコを持ち上げ、眉を八の字にしてそれを数度振るとコムイは、
「ねー、コーヒー」と、まさに給食年齢にまで許されるべき口調でその欲求を述べた。
それに、青筋を立てたリーバーの中で何かが音を立ててブチギレたのは言うまでもない。


「また性懲りも無くコーヒーコーヒーって駄々捏ねるんスよ、この人!!」
「あらあら。リナリーが居ないものねぇ」
「僕、コーヒー無いと仕事はかどらないんだもーん」
「このクソ極限状態で、
 しかもその無駄にデカイ図体でブリッコすんのはよして下さい…ッ!」
「えー」
「まったくね。
 まかり間違っても可愛くないわよ、コムイ」
「え、僕って可愛くない?」
「どうしてそこで真顔になるのか私には理解できないわ」


むしろ真顔でそうしてやり合えるアンタらが俺らにゃ理解できないよ、と。
疲労とはまた別の脱力感を覚えて、
リーバーを筆頭とする科学班面子は皆一様に肩を落とした。
余計な追い打ちは勘弁してくれ。
見渡す限りの過労死寸前集団は今まさに死滅の危機に瀕していた。


「…仕方無い。
 暇だし、私がお茶汲みしてあげるわ」


そんな死屍累々の上へと光明を注いだのは、極上美人のにこやかな提案だった。


「「「「───ええッ!!?」」」」
「わーい!のいれたコーヒーってこれまた香りからして格別なんだよね」
「はいはい。美味しいコーヒーいれてあげるからアンタはサクサク仕事しなさい」
「りょうかーい」


科学班、復活。
それはまるで浜辺に打ち上げられていた魚が夕立ちを得たような復活ぶり。
鼻歌まじりのコムイをはじめ、ぞろぞろと仕事に精を出し始める科学半面子を見渡し、
リーバーは(毎度のことながら単純だな、オレら)と感慨に浸る。
勿論そんな自分達が嫌いではない。
むしろ好ましくすら思う。
そこには少なからぬ下心といった不純なものも含まれているのだが。


「………(あ、ヤベ。オレ、コーヒー苦手じゃん)」
「ん? 何か、リーバー班長?」
「あ、ああいや…その、室長のあしらい方を是非というか心底伝授して欲しいというか、
 むしろもういっそのこと科学班に籍を置いてくれないかなぁなんて…」
「ふふ、科学班でなしに、リーバー班長の戸籍の方になら考えておくわ」
「ういっす、よろしくおねがい…───って、えェ!?」
「ダメよ、リーバー班長。
 そんな自分はおちょくり甲斐があります隊長的なリアクションばかりしてちゃ、
 いつか本当にコムイにリアクション死させられるわよ?」



このSSは460000hitsキリバンを報告して下さった葉桜並木サンへ。
リクエストは『リーバー夢』とのことでこんなちょっぴりギャグ仕立てに仕上げてみましたー。
やっぱリーバー班長は弄ばれてこそ。(愛故です)

image music:【にゃんだふる55】_ TOMOSUKE.