僕らの朝事情


「じゃーん、コムイ仕様♥」


黒の教団・室長のみが着ることを許される白い団服。
それを皺だらけのシーツの上で素肌に羽織って彼女は、
ベッド横のサイドボードへと置かれていた自分の眼鏡へと手を伸ばし、
すっとそれを装着すると、まるで幼子の仕草でもって両腕を広げて見せた。


「…しっかし相変わらず度のキツイ眼鏡ね」


去年よりも度が上がってるじゃない。
言って、彼女はくっと綺麗に眉根を寄せる。
ああ、己の視力の低さが心底悔やまれる。
僕の服を素肌の上に羽織って、
あまつさえ僕の眼鏡を掛けている彼女の姿を拝めないなんて。


「…もう一つ眼鏡作ろうかな」
「は?」


ぽつりと呟けば、ぼやけた視界の中で彼女が首を傾げたのが判った。


「そうしたら君の眼鏡姿を楽しめるのに」
「…そこまで目が悪かったの?」
「悪いよー」
「この距離でも見えない?」
「見えないね」
「………本当に?」
「疑ってるね、思いっきり」
「当然」
「酷ッ。見えないよ、本当に」
「じゃあこれでは?」
「うーん、薄らとなら顔のパーツの判別はつくかな」


団服の色とはまた違う白い肌。
団服の白にも、肌の白にも映える黒い髪。
そして。





「───じゃあこれは?」





不意打ちにも唇へと押し付けられた、温かく、甘く、柔らかな赤。





「…残念だけど、近すぎてピントが合わないかな」
「そこは愛の力でカバーして頂戴」
「了解」


誘われるままにもゆったりとシーツの海へと沈めれば彼女は、
「コスチュームプレイは別途料金ですが?」と楽しげに笑って寄越した。



【大人の、大人な】の続きって感じで。
私の周りオフ友な野郎共は揃って「素肌に白ワイシャツは男のロマンだ!」と、
ノンアルコールにも真顔で断言しやがるような奴らばっかです(笑)

image music:【RADICAL DREAMERS〜盗めない宝石〜】_ 光田康典.