クロック
ワークス
『もしもし?』
「あ、どうも。リーバーです」
『おはよう。…って、ああ、そっちはもう"こんばんは"かしら?
珍しいわね、リーバー班長が私に電話を掛けて寄越してくれるなんて』
「忙しいトコ本当申し訳無いっス…」
『ふふ、リーバー班長からの電話なら24時間大歓迎よ。
それで何かあったの?』
「───起きないんスよ、あの室長…ッ!!」
『あらあら』
「折角作って貰った【兄さん。私、結婚します】リナリー目覚ましも、
最近じゃめっきり効果が薄くなって…」
『無意識下でも肉声と機械音声の区別がつくようになるとは…』
「このままじゃ仕事が滞って科学班がパンクしちまいます…!
黒の教団が機能停止っスよ!
上は喚くし下は呻くしでもう俺どうしたらいいか…!!」
『落ち着いて、リーバー班長』
「う、うう…っ」
『うーん…、そうね。
このまま受話器をコムイの耳元にやってくれる?』
「? はい」
言われるままにも、受話器をそっと室長の耳元へと宛てがう。
電話越しにも直に起こそうということなのだろう。
確かに、『世紀の大親友』且つ愛してやまない婚約者の声となれば、
この泥に沈んだ死人のように眠る室長も蘇る、もとい目を覚ますかもしれない。
しかし、今回ばかりはそうやすやすとはいかなそうだ。
今回のそれは自分や科学班の面子と遊ぶための狸寝入りとは違う。
本気で寝入っているのだ。
けれど、彼女のこと。
きっと毎度のように鮮やかな手品を披露してくれるのだろう。
不謹慎にも期待に心踊らし握った受話器を見つめる。
『─────────…』
受話器から微かに零れて消えるささやかなノイズ。
「───な…ッ!!」
弾かれたように身を起こした振動で机の上の書類が雪崩を起こし、
無惨にも散り広がって床を白く染め上げた。
「………え?」
「…すげぇや」
「え、あれ、…リーバー、君?
うん? じゃあ今のは夢…」
『どう、リーバー班長? 起きた?』
「あ、はい。バッチリ起きました」
「!」
『それは良かった』
「…それ、かい?」
「は? あ、はい」
「代わって」
何て、不機嫌そうな。
この室長はこんな顔もするのか。
物珍しいその表情に思わず相槌を打つのも忘れて受話器を両手で差し出す。
受け取った室長は鬱陶しげに前髪を掻き揚げ、盛大な溜め息と同時に言葉を吐き出した。
「、その手はいただけないな」
一体、電話越しに何を告げたのだろうか。
彼女が任務から帰って来たら室長に黙って出迎えて聞いてみよう。
『コムイ。さっさと起きないとあの馬鹿師匠と結婚するわよ』
いや、DGサポーターズクラブのあのネタは是非拝借しとかなと思って…(笑)