罫線メモリー
「神田」
一瞬だった。
否、それは一瞬にも満たなかった。
「───ぐ、ぁ…っ!?」
黒の教団、食堂。
瞼を閉じて開くその僅かな間に黒い男は、
更に深い黒、漆黒色の女の片手に首根を掴まれ、
腕一本で持ち上げられ、あまつさえ暗く冷たい壁へと磔付けられていた。
「ハズレ者、ね…」
辺りを支配する静寂。
片手で神田を壁へと張り付ける女の瞳は艶やかでありながら、しかし酷く温度の低い代物で。
見る者を胃から底冷えさせるそれは、呻く神田の苦悶をゆったりとなぞり上げる。
「彼らがハズレ者なら…」
その表情同様、ぬくみの無い声。
まるで別人。
誰だこの女は。
耳から直に冷えた鉛を注がれるような感覚に、神田の背筋に冷たいものが奔った。
「───さしずめ私達は『アタリ者』ってところかしら?」
とんだ"アタリ"ね。
冷ややかな笑み。
けれど何処か自嘲の綯い混ざった寂しげなその美貌。
初めて見る種類のそれに。
身体中の血潮が引いていくのを感じて神田は、白く意識を遠のかせた。
「───神田?」
「…あァ?」
「どうしたの、ボーっとしてたわよ」
「……してねェよ」
昔の、お前との一連のやりとりを思い出していたとは言えず。
舌打ちと悪態を吐き、団服の裾を翻してその気遣う声ごと回想を振払う。
「まぁいいけど…、アレン君とは仲良く仕事するのよ?」
記憶の中の冷たい女と、今眼前で穏やかに笑う女。
どちらも同じ一人の女でしかないというのに。
「はッ! 誰がモヤシなんざと仲良くなんかするかよ」
だというのに、俺は。
「ふふ、そうね。
神田は誰とも仲良くなんてしないんだったわね」
しかしアレン君がモヤシなら神田は茄子ね。
こうして眼前で楽しげになんて笑う女の方がいい、と。
どうしてそんなくだらない事を考えなければならないのか。
そしたらラビは…白菜?(笑)
ファイル漁ってたらこんなん出てきました夢。
たぶん2巻が出た頃に書いたヤツなんですけど、
「きっとこのネタ書いてる人たくさん居るだろうなぁ」とupせずにお蔵に入ってた一品です。
………まだ神田のキャラが掴めて無かったんだなぁ(笑)