With
or
without me


「神田」


何者をも惹き付けてやまないその美貌。
何者をも威圧し征服するその強い眼差し。
何者にも屈することのないその誇り高さ。

高潔な黒。
届かないその色。

目の前で蒸籠蕎麦を食す女は、相変わらず外の造りだけは圧倒的な出来を呈していた。


「…何だ」
「いや、相変わらずイイ男だと思って。見惚れてたのよ」
「ハッ! 大概暇してんな」
「まぁ神田の観察日記が書けるぐらいにはね」
「………ハァ!?」


そう、『高潔』。
腹立たしいが、まさにこの女のためにあるような単語。


「やぁね。冗談よ」


第一印象は飄々とした女。
第二印象は世話焼き女。
結局定着したのは、揚羽蝶のような掴み所の無い女。

初任務だとコムイから紹介された時には、変な女だと思った。
それがこうして女曰くの"相棒"という肩書きに甘んじて、
二人で飯など食っているのだから本気で目眩がする。
何故、こうまで俺にこだわるのか。
本気で判らない。
苛付く。
だというのに、この女と居ることを否としない自分が一番面白く無かった。


「食べないならその鮪のお刺身ちょうだい」
「待てコラ、オイ…!」
「うーん、美味。
 あ、もしかして好きなモノは最後に残しておくタイプ? ってことはB型?」
「───…叩っ斬るッ!!」


俺ばかり。
俺ばかりなのか。

今こうして俺の皿から刺身をかっ攫った女は、
俺と居ることに苛付きを覚えないのだろうか。
はっきり言って、この女に友好的な態度をとった覚えは一度も無い。
口を開けば悪態が突いて出る。
厭味・皮肉を取り除いたら何も残らない。
俺がこの女ならば即刻叩っ斬ってるだろう。

しかしこの女はといえばのらりくらりとしながらも、
しかと受け止めるばかりで、憤ることが無い。
むしろ『可愛げの無い犬ね』とほざいては、楽しげに皮肉やら厭味やらを返してさえ寄越す。


「ねぇ神田」
「何だ。辞世の句なら一言で済ませ」
「今度、本場のお刺身食べに行こうか」


判らない。
苛付く。
面白くない。


「………」
「勿論、私のおごりで」


高潔な黒。
届かないその色。

どうして、俺ばかり。


「どう?」
「…お前のおごりなんだな」
「そう。私のおごり」


理解し得ない、女。
更に理解し難い、自分。





「───考えておいてやる」





何故俺は、この女と居ることがやめられない。



それは、君が彼女と居ることに価値を見い出しているから。

『With or without you.』の神田視点。
ヒロインは『神田が居ること』に、相手に価値を見い出していて、
神田は『自分が居ること』に、自分に疑問を抱いてるわけです。
敢えて相手に価値を求めないのは神田なりの苦肉の抵抗。