イエス
アイ ウィル


「あ、そうそう。
 皆に伝えとかなきゃいけないことがあったんだ」


パチン、と。
小気味良く指を鳴らしてそう言い放ったコムイに、
気怠げに書類へと目を通していたは訝しげに顔を挙げ、眉を顰めた。


「ちょっとコムイ…アンタ、まさか…」


予感がひしひしと確信に変わりつつあるのだろう。
その声色はげんなりとした色味を帯びていく。
対してコムイはその危惧に頷くように、にこりと笑って。
ああやはり。
片手で顔を覆った
"二人完結"なやりとりに頭上に疑問符を浮かべる周囲を余所に、
コムイはやはり楽しげな笑みでの"諦め"に決定打を打った。


「はーい、皆ちゅうもーく!」


片手で顔を覆い俯いたまま吐かれた盛大な溜め息。
それは処置無し、お手上げだとのの意思表示だ。
もはや抗議する気力は無いらしい。
ともすれば、うさたんマグカップを片手に、
学校の先生よろしくシュビッと真っ直ぐに片腕を挙げたコムイ。
研究室中の視線が一斉に集中する。
続く言葉を待って、コムイの満面の笑みを不思議そうに見つめる一同。
が再度、赤ら様に嘆息した。

そして。





「この度、ボクとはめでたく婚約する運びとなりましたー!」





…。

……。

………───。





「「「「「───ええぇえぇぇえぇッ!!?」」」」」」





黒の塔に、実に耳触りの悪い悲鳴まじりな大合唱が響き渡った。





「本当、兄さん!?」
「マジっスか、室長!?」
「ホントだよーん♪
 ねぇ、?」
「……早まったかしら」
「やだなぁ、そんな照れちゃって」
「照れてるんじゃなくて呆れてるのよ。それも心底」


コムイとの元にバタバタと集まってくる部下達。
矢継ぎ早に畳み掛けられる質問の嵐にもはやは目眩さえ覚えていた。
確かに昨晩、『あ、そうだ。に僕の奥さんになって欲しいんだけど』と、
ベッドの中でプロポーズを受けて、『いいわよ』とその場で二つ返事にも承諾したのだが。
『それじゃあ明日は電撃婚約発表だね』と言っていたのもやはり覚えてはいるのだが。
まさか本当にやるとは。
頭痛を堪えるようにこめかみを押さえるは、
本気で頭を抱えて転げ回りたい心境だった。


「というワケで」


パンパンと2回手を叩いて再度視線を自分へと集めたコムイ。


「式は千年伯爵を倒して初めての休日にするつもりだから」


その表情はやはり笑顔だったが。
けれど普段の飄々さやお茶目さは影を潜めて。
酷く穏やかなその笑み。
初めてみる室長の顔に、とリナリー以外の面子が面食らって唖然とする中、
コムイは同じく穏やかに口を開いた。


「みんな、ボクら二人の幸せな新婚生活の実現のために、今日からまたキリキリ働いてね」


そして、そのノロケた言葉の裏に隠された意味に。
気付いたからこそ科学班の面子は皆、仕方無いとばかりに苦笑して。


「言ったからには室長もしっかり働いて下さいよ」
「失敬な! ボクはいつだって一生懸命働いてるじゃないか!」
「無駄も多いっスけどね」





親愛なる室長と不覚にも涙ぐんでしまったその婚約者に祝福を贈った。



「Would you marry me?」「Yes, I will.」ってことで。
01号のコムイ兄さんに今までに無いほどの萌えを得て書いてみたり。
コムイ兄さん好きだー!

image music:【魔法の言葉〜Would you marry me?〜】_ Do As Infinity.