10.
か み さ ま わ た し は こ こ で す よ
「此処とは何処だ?」
「此処とは此処です」
「答えになっていない」
「だから、此処ですってば」
ぎゅうっと。
両腕を広げて勢い良く抱きついた黒い団服の裾。
ふわり、と。
甘い煙の残り香が香った。
「オイ」
「師匠の処」
「明日はお前のせいで天変地異だな、馬鹿弟子」
「失敬な」
この半仮面の男と行動を共にするようになってから、私が得たものは数多い。
日に三度の挨拶という会話。
日に三度の食事という習慣。
日に三度の修行という学習。
そして何よりも大きかったのはこれ。
この白い手袋越しに伝わってくる、大きな掌とその温度。
自分以外の他人というぬくもり。
「これ以上、世間様に迷惑を掛けるなよ」
こうしてくしゃりと髪を混ぜられるその都度、
私がどれだけ苦労して込み上げてくる感覚を噛み殺してるかなどこの男はきっと知らない。
「善処はします」
神は一度、私から全てを奪った。
生きることも、死ぬことも、何もかもを奪って私を置き去りにした。
けれど、もう奪わせない。
これ以上何も。
この男が私に与えてくれたものを、神になど何一つとしてくれてはやらない。
「神様、私は"此処"ですよ」
さぁ、神よ。
やれるものならやってみるがいい。
「またか」
「宣戦布告は計画的にって言うでしょう」
「言わん」
私からこの男を奪おうとするものは全て、それが天変地異であっても粉砕してやる。
神さま わたしはここですよ