限りなく一を
思わす平行線


「おはよう、弁慶」


彼女は悟っているのだ。
どうしたら今以上に自分を理解できるかを。


「おはようございます」
「…あら、昨日は遅かったの?」
「おや、バレてしまいましたか」


そう、これからの共に居る時間を増やせばいい。


「目が、軽く充血してるもの…」


極めて単純にして最上の策。
明解なそれを理解しているからこそ彼女は何を暴くでもなく、
こうしてただ穏やかに自分の傍らにあるのだろう。


「大丈夫ですよ」
「そう…?」
「ええ」
「無理をしないでとは言えないけれど…無理をする時は言ってね」
「はい」


だからも僕も、できるだけ君の傍に。
一線を越えぬよう、けれど許す限り君の隣に。


「しかし久々ですね。君が作る朝餉は」
「いつもは梶原邸で譲に任せてるものね」
「譲君の料理もとても美味しいですが、やはり君の作る方が僕はほっとしますね」
「ありがとう」


境界線を挟んで横並びに佇む僕らは、境界線上で手を繋ぎ合い立ち尽くす。


「どれ、僕も手伝いましょうか」


時勢に背を押されて歩みを進める度、延々と描く平行線。


「こうして貴方と一緒に食事を作るなんて久しぶりね」
「おや。それではまるで僕がぐうたらな亭主か何かのようじゃないですか」
「ふふ、弁慶が?ぐうたらな亭主?」
「ええ。そして僕がぐうたら亭主ともなれば君はさしずめ世話嫁といったところですね」
「……ええと」
「ほら、毎度そうして君がそんな可愛い反応を返すから、
 僕は本気でぐうたらな亭主になってしまおうかなんて考えてしまうんですよ?」
「弁慶っ」
「はは」





そう、僕らは。
この関係に答えを作るつもりは無いのだ。



互いに想い合ってるのに、想っているからこそ一歩を踏み出さない二人。

image music【 思い出に変わるまで 】 _ patrisia.