俺の運命を決めるのはこの女だと、そう思った。


黄泉路の華


「───望美には指一本触れさせないわ」


鮮やかな白い残影が弧を描き、まるで花弁が散り乱れるように飛散した怨霊。

抜刀は煌めき。
疾駆は艶やかにして流麗。
断罪は刹那。
静かなる熱の鳴動はまさに春の夜の夢の如く。


「この刀で深く抱いてあげる…」


白く鮮艶で壮絶な太刀筋。
あの刀があの女の一部なのか。
はたまたあの女こそが刀の一部なのか。
戦いの中、女は全身が刃と化す。
眼差しが、呼吸が、腕が。
あの静謐な眼差しが死をなぞり、あの淡い呼吸が死を招き、あの細い腕が死を描き出す。


「望美」
「うん! 任せて!
 巡れ天の声、響け地の声───」


女の発する静かなる剣気が血潮を騒がせ、甘く脳髄を痺れさせた。


「はい。終ー了ー」
「おいおい、これじゃ俺らの立場が無ぇっての」
「は? 立場?」
「大の男が2人も居るってのに出る幕無かっただろ」
「ああ、成る程。ごめーん」


そう、この女は死だ。
この女の白く鮮艶で壮絶な生が、触れるもの全てから生を吸い上げ死を齎す。


「それじゃあ次からは、望美は将臣に任せてあたしは知盛守っちゃおうかしら?」


美しく、静謐で、けれど残酷な。
そう、それはまるで。
赤いそれらの中央に君臨し、最期まで潤い咲き誇る白い曼珠沙華の花。


「お前が、知盛をか?」
「そう」
「…っく、あはは! そりゃ心強ぇ!」
「今ならお友達割引で安くしとくわ」
「ははっ、良かったなぁ、知盛」
「……クッ、冗談はよせ…」





ああこの白い死人華を、赤で濡らして塗り染めてやりたい。





「───お前は俺の敵だ」





そうだ、そうして俺を見ろ。
その漆黒の瞳一杯に俺だけを映せ。
そして来たるべきその時には、俺の前に立ちはだかれ。


「お前は俺の敵…そうだろう?」


俺と対峙するその時、お前は一体どんな顔をするのか。
泣くか、怒るか、はたまた高らかに笑うか。
おそらくそのどれでもないのだろう。
この女はそんな単純な女じゃない。
何せ俺の運命を決める女だ。
きっと俺の期待を裏切り且つ期待を満たしてその器を破壊するような、
いい顔を見せてくれるだろう。

だから。
その時は俺にその白い刀を向けろ。
静かなるその熱を俺へと注げ。





「お前は俺の…俺だけのものだ」





───そうして俺を、望め。



知盛にとって、それが単なる欲であっても愛あってもどっちでもいいんでしょうね。
理由なんてどうでも良くって、ただ『あの女が欲しい』、それだけが真実。
それ以上は必要無い。…周りからしたらはた迷惑な奴ですが(笑)

image music:【 Kremlin Dusk 】 _ Utada.