薄羽の
スタッカート


「あの…」


客室へと案内してくれた凛々しき姫君は、扉を背に、辿々しくも口を開いた。


「何かしら?」


彼女の、エオウィンの言いたいことは判る。
それはもう見当が付き過ぎて苦笑を堪えるのに苦心する程に。
くるとは思っていたが。
その色素の薄い真白な頬に、さっと朱が射す。


「不躾な事とは重々承知しております。
 ……その、アラゴルンの殿とはどうのような御関係で…?」


そう、私とアラゴルンの関係だ。

何とも微笑ましいものだと思う。
彼女は年齢だけならばもういい年頃の娘、もとい大人の女性であるが、
内面はといえばまだ大人になりきれない少女を抱えているのだ。
精一杯の虚勢か、必死に視線を逸らさぬよう堪えているようだが、
その瞳にある不安や嫉妬といった心の揺らぎまでは隠しきれていなかった。


(ファラミアのためにこの失恋を乗り越えて、更に女に磨きをかけて頂戴)


アラゴルンの心の中にはアルウェンがいる。
けれどそれは、この口から告げる事柄ではない。
彼女が自ら察して、目の当たりにし、決めなければならないことだ。


「アラゴルンとの関係ね…ふふ、気になる?」
「え、ええ…」
「でも安心していいわよ」


彼女の目線の先へと、左手を持ち上げてみせる。
正しくは、左手の薬指にはまった銀の輪を。





「御覧の通り、私は既に"売却済み"よ」





まぁ、と。
曇りの無い硝子玉のような蒼い瞳が、大きく見張られた。





「わ、私ったら…!」
「いいのよ」


真っ赤になって、自分の先走りを恥じて謝罪するエオウィン。
やはりまだ少女なのだ、この子は。
自分は大人であると背伸びしたまま成長してしまった子供なのだ。



今回はノロケなヒロイン。
エオウィンはそういうところが可愛いのだと思います。
で、そういうところにファラミアはやられてしまえばいい(笑)