それに、出口も入口も無かった。


始まりて
終わる魂


まばたきをした次の瞬間、そこにあったのは最高に非現実的な現実。

眩い光に包まれるだとか、不慮の交通事故だとか、古井戸に落ちるだとか。
突如、洗濯機の脱水槽に放り込まれるみたいにぐるぐると何かに飲み込まれるでもなく。
いわゆるトリップの予兆ともいえる兆しも何も無しで、
瞼を閉じて開けるという一瞬にも満たないコンマ数秒の時間の経過の内に、
自分の存在する世界は完全な別物にすり換わっていた。
まさに問答無用。
唐突も最上級にこちらの世界へと呼び込まれたのだ。

ちなみに『呼び込まれた』と敢えて表現するのは、
それが私の意志という意志を完全に無視した現象であったことと、
そこに何らかの、けれど確固たる意志の介在を感じたから、それだけのこと。
決して誰かしらの助けを求める声や救世主を喚ぶ声が聞こえたわけじゃない。


不運か幸運かは別として、その直感は見事に的中していた。
最初に言葉を交わしたのはヴァラールの一人であるマンドス。
ともすれば否応にも無く、彼から事のあらましというか既決の決定事項を告げ聞かされた。
まず此処がつい数瞬前まで自分が居た世界ではないこと。
そして今こうして此処に居る自分はマイアとして数えられる存在であること。
これから自分は中つ国へと赴くこと。

質問は許された。
回答も質問の数だけ与えられた。
僅かながらも選択肢があることを知った。
けれど選択権は無かった。
無論、拒否権も。


マンドスが告げるべきことを告げ終わると、またもやまばたき一つで世界が一変した。
先程まで空間を有限なものとしていた幾重もの美しい織布の天蓋が消え、
(今思えばあそこはおそらくマンドスの館だったんだろう)
まるで天球の中とでもいおうか、光の中に更に星々が煌々と輝き満ちる無限の空間にいた。
そこにはヴァルダがいた。
彼女はそれこそ言葉を失う壮絶な美をもって微笑み、
鼓膜から脳へと浸透するかのような静謐な声で祝福の歌と言葉を謳った。
そして一つ額へと小さな口付けを賜ると、また周囲の世界ごと流れ落ちた。


三度目にして最後のまばたきで自分の両足の裏が踏み締めていたのは、
惜し気もなく、文字通り宝石を散りばめた砂浜だった。

もう驚く暇も無い。
というかここまでくるともはや驚く気も失せる。
(心の中で「ありえねー…」なんて呟くぐらいのことはするが)
心境は既に、ドンと来い超常現象ならぬドンと来い超異常現象群だ。

無駄に適応力の高い自分の性質に感謝するべきか、はたまた呆れ返るべきか。
迷っている内に、目の前の光煌めく波が形と色を持ち始めた。
現れたのは前立てが白く泡立ち、全体に黒く艶めく兜を冠り、
上から下へと白銀から色濃い深緑のグラデな帷子に身を包んだ酷く厳めしい存在。
彼は太く低くそして厳かな声で自身の名を口にし、
これより私を中つ国へと運ぶと、またもや決定事項だけを述べて、
その太い腕をこちらへと伸べてきた。
ある意味諦めともとれる溜め息を一つ吐いて、その手に自分の指先を乗せる。
すると色採々の宝石を抱いて尚、水そのものの色に輝く波に包まれた。
自然と目を閉じ、しばらく心地良い波の音と、
話し掛けてくれているのか、はたまたただ歌っているだけなのか、
いまいち判断のつきかねるウルモの声に聞き入っていると、
「ようこそ」という、ウルモとは別の男性の声が突然耳に入って両の目を開けた。
そこに居たのは、ファラスリムの長である一人のテレリ・エルフで、
気付けば自分は先程までの海とは明らかに違う、
深い青の波が打ち寄せる白い月色の砂浜へと立っていた。


そうしてウルモより先んじて予見を預けられていたらしいキーアダンに手を引かれ、
淡く輝く真珠の散りばめられたバラールの港へと迎えられた。
そこでこれまでの経緯を自分的整理も兼ねてキーアダンに話すと、
彼は要領こそ得ていても語り手すらも疑問符まじりな拙い説明にも、
鼓膜で聞き流すこともなく、また質問・疑問も交えて、終始真摯に耳を傾けてくれた。
そして、話し終えると彼は笑って私の頭を撫でて言った。


「ではこれからは、此処が貴女の帰る場所だ」





この世界に来て、彼が初めての友人となった。



あはは、ついに手を出してしまった指輪夢。
結局最後まで悩んだ結果、グロールフィンデルの奥さん設定採用。
恋愛もアリだけどそれよりもファンタジーな指輪世界を楽しもうということで。
まぁ、アラゴルンに拾われる女子高生設定も捨て難かったんですけどね…。
あれだけ時間かけて年表まで作ったのになぁ(笑)

…というか、もしかして映画ファンにはまったく楽しめない夢ですか、コレ。(今更気付くな)