君を想いて
アリア


「───の弱点、ですか」


剣術稽古の合間の休憩に、
いつになく真剣な面持ちでグロールフィンデルに詰め寄ってきたのは裂け谷の双子星。
未だ少年と青年の境にある、エルラダンとエルロヒアだった。


「急にどうしたのです?」


何故、彼らがこうも縋るように金華公を問い詰めているのかと言えば、
実を明かせば至極単純且つ明快な理由であったりする。
それはこのところ、どころかここしばらく、否、ここ数カ月ずっと、
双子星はとの手合わせに尽く連敗中なのだった。

双子は教育係であるグロールフィンデルから武術を学んでいるわけだが、
彼から教わるのは馬術、剣術、弓技が主立ったもので、
それを補う形でからも剣術、体術、野伏の技などを教わってもいた。
そして、彼らが専ら連敗中なのはこの体術なのである。
弓技ではやはり、元来の種族差もあって双子の圧勝、
剣術にしても技量の差こそありはすれ、全く勝負にならないことはないのだが、
いかんせん体術に関しては小指で捻るレベル、要するにボロ負けもいいところであった。

そうして「反則だ」やら「有り得ない」と双子がブーイングを寄越す度に彼女は、
「まぁかの誉れ高い金色の武人の妻なんだからこれぐらいはね?」と、
楽しげに笑うのだった。


「グロールフィンデルならの弱点を一番的確に心得ているんだろうと思って」
「『私よりもフィンデルの方が強い』って、いつだったかも言ってたしね」


そんなこんなで。
双子はもう見事に真顔だった。
その顔に普段の飄々さは欠片も無い。
負けは相当にかさんでいるらしい。
そんな二人を前にして、グロールフィンデルはふと利き手を口元へと添えると、
僅かに考え込むような素振りを見せ、そして呟くように口を開いた。


「そうですね…それは」
「「それは!?」」


その隠れていた端正な口元が、照れともとれる笑みを含んでいたことは、
それこそイルーヴァタールのみぞ知る。


の"弱点"は案外と身近なものですよ。
 たとえば普段から良くお二人の目に触れているようなものですね」
「僕らの目に?」
「普段から触れるもの?」


彼女の"急所"を知らないわけではない。
彼女は武術に関しては両利きだ。
攻め難いそれにも、狙う隙はいくつかある。
けれど、彼が答えたのは双子の求めるそれではなかった。


「ええ。ただお二人には少々手強いやもしれませんね」


"急所"ではなく、"弱点"。
敢えてあやふやに、謎かけじみた形で示されたそれ。


「さて、では稽古を再開しましょうか」


そして、それの示すところといえば。
存外にも的外れなものであったりして。





『悪かったわね…私の唯一にして最大の弱点はフィンデルのその笑顔なのよ!』



10万hist企画の再録。
物珍しくもノロケてみたりする金華公。
ちなみにグロールフィンデルも、体術ではヒロインに勝てた試しが無かったりします。