夕凪色のワルツ


私の妻は、私の知る中で最も美しい存在だ。


彼女は強い。
精神も、身体も。
その強さ故に、美しい。

彼女は選んだ。
人の子の感覚で、エルフの時を生きることを。
それがどんなに辛いことかは漠然とならば想像に難くないだろう。
我々はあらゆるものが緩慢であるのだから良い。
しかし人の子である彼女には、その全てが鮮やかなのだ。
喜びも幸せも。
そして怒りも悲しみも。
鮮やかであるものは、その眩さ故に鋭さを生じ、
苦痛は積み重なれば精神に疲労をもたらす。
疲労は心を蝕む。

しかし、そう。
それでも彼女は選んだ。
人の子として生きると。

もし自分が彼女の境遇にあったのならどうか。
おそらく「もう倦み疲れ果てた」と、
とうの昔に心共々身体も朽ち果て、自ら投げ打っていたことだろう。

しかし彼女は、取り巻く世界の鮮やかさも、
そして己自身の鮮やかささえも、その一切を損ねることなく。
全てをありのままに受けとめ、受け入れてきた。
心を蝕まれることなく、むしろその輝きを増すように今も生きている。
彼女は強い。
精神も、身体も。
そしてその生き様も。
だからこそ彼女は美しい。
内からもたらされるその美しさ。
揺るぎない、絶対の美。


やはり私の妻は、私の知る中で最も美しい存在なのだ。





「───…と、あのロリアンの万年新婚夫婦に語ったわけね?」
「ああ」
「笑顔で肯定しないで頂戴…!」
「?」
「もう2、3百年、ロリアンに顔を出せないわ…!!」
「何故だ?」
「……ああもう本当、タチの悪い旦那なんだから…っ」



Web拍手お礼夢。
ノロケ金華公・第2段。(シリーズ化すんなよ)
これだからエルフの旦那はタチが悪くて困ります。