星繋ぎの
シャコンヌ


「まーたこのいたずらっこ共は…」
「「うわ、!?」」


黄金髪と黒髪美人の教育係2人を警戒して、曲り角で入念に様子伺ってた双子。
その背後へと不意打ちまがいにも完全に気配を消失させて姿を現したのは、
腕を組んだ黒いドレスの貴婦人だった。


「「逃げろ!」」
「甘い」


一刀両断、ぐっと首根っこを捕まれ持ち上げられる。
黒のドレスとストールを身にまとった出で立ちからして、
否、出で立ちばかりはたおやかな貴婦人であるに、
片手に一匹ずつと、まるで猫のように扱われる二人という構図は、
今や裂け谷のエルフにすれば、何とも微笑ましい日常の一コマとなりつつあった。


「この私から逃げられるとでも?」
「「うー…」」


観念したかのように肩を落とし、しょげた声を零した双子星。
しかしがその両掌を開かないのは、
解放したとたんに掌を返したように小生意気な笑顔を浮かべて、
「「詰めが甘ーい!」」とエレストールからトンズラをかました光景を、
ついこの間、散歩途中にも夫とまったり眺めたばかりからだった。


「「…」」
「そんないじらしい上目遣いをしてもダメよ。
 捺印付きの念書でも書くなら考えてあげても良いけど」
「ちぇ」
「やっぱりはエレストールとは違うか」


摘み上げられたままにも、同時の動作で胸に利き手を当て双子星は、
「我等はこの谷の加護に誓う」と慇懃にも誓いを立てる。
すると「結構」と満足げな笑みを浮かべては、そっと双子に足場を与えた。


が直々に捕まえに来たってことは…」
「これはもう覚悟を決めた方が良いのかな…」
「ふふ、安心なさい。
 私"は"叱ったりはしないから」
「「…本当!?」」
「説教はエルロンドの専売特許だし、
 ラダンとロヒアへの懲罰は今やエレストールの多種多様な執務の一つだからね。
 私の出る幕は無いわよ」
「「大好き!」」
「ただ、どちらの元へも連行するけど」
「それじゃあ結局」
「同じことじゃないか」
「あら、そうでもないわよ」


見上げれば、そこには不敵な笑み。
脈絡の無いそれに双子は揃って疑問符を浮かべ首を傾げた。





「いたずらは故意にでも、あの硝子細工を割ってしまったのは"失敗"なんでしょ?」





目を見張った双子星の頭を両手で撫でて、は穏やかに目を細めた。





「違う?」
「…ううん」
「壊すつもりなんてなかったんだ。
 父上とグロールフィンデルをちょっと驚かせようと思っただけで…」
「まさか父上が動くだなんて思わなくて…驚いて、気付いたら僕の肘が…」
「ならね。もし二人が心から反省しているのだったら、
 情状酌量の余地を認めて、ゲンコツと反省文は勘弁して貰えるよう口添えてあげるわ」


どうする?
言って試すように笑う
じっと顔を見合わせて思案する双子星。


「まぁ、二人が『結構です』って言うんなら勿論このまま逃がしてあげるけど」
「「と一緒に行く」」
「ふふ、良い選択ね」


回答は、まさに二つ返事だった。


「そういえば、いたずらで【失敗した】時に迎えに来てくれるのっていつもだよね」
「さぁ、どうかしら?」
「そうだよ。
 僕らがいたずらに【成功して】逃げるのを見かけても、
 『若いっていいわね〜』とか何とか言っては大抵見逃してくれるのにね」
「ふふ、さっきから言ってるでしょ?
 説教はエルロンドとエレストールの役割だって」


自分から伸ばしてきたその小さな手を取り繋いでは、
左右に双子星を連れてエルロンドの執務室へと歩き出す。
子供である二人に合わせられた歩調はやはりゆったりとしたもので。


「「また迎えに来てね」」
「二人が反省することを忘れない限りはね」





そんな3人の姿は、今や裂け谷のエルフにすれば微笑ましい日常の一コマとなっていた。



何かと双子星な夢が多いですね、ウチ。愛。

image music:【THE GARDEN OF EVERYTHING】_ 坂本真綾.