その盲目は
君が証


「…負けてるわよね」
?」


愛しいエルフの、その滑らかな白い頬を一撫でして。
もはや慣れの領域にあったりするそこはかとない敗北感に、
また一つ吐息で微かな溜め息を吐いた。


「ノルドとはいえやっぱりヴァンヤの血なのよね、その金髪と白い肌は」


グロールフィンデルはエルフの中でもまた抜きん出た美貌の存在だ。
それはもう、惚れた弱みだとか身内の引け目といったものなど、
あってないようなものとする程に。


「白い肌、金の髪、水灰色の瞳…」


エルフ特有の内から仄かな光を発して揺らめく白晢の造形美。
彼の名前を態として表す、濃い蜂蜜色の見事な黄金髪。
誉れ高い武人というには少々厳めしさの足りない、
けれど筋骨のしっかりとした無駄のないしなやかな体躯。

パーツも全体像としてもまさに完璧な彼。
確かに、美もここまで壮絶だとある程度諦めがつくといえばつくのだが。


「旦那が綺麗というのも、女としては複雑よね…」


やはり複雑なものは複雑なのだった。


「そういうものだろうか…私にしてみれば君の方がずっと美しいと思うが」
「それは厭味…?」 
「まさか」


元が人間である私(今もそうでありたいと思っているけれど)に対してじゃあ、
どこにどう転んでも、たとえ言った本人にその気が無くとも厭味にしかならないわよ、と。
言えば、彼はその端正な顔を涼やかな苦笑で満たした。
(しかしそれすらも美人極まりないのだからもう本当にどうしようもない)


「濡れたような漆黒の髪。
 雪華石膏を思わせる白く透いた肌。
 赤き薔薇の花弁が滴り落ちたような艶やかな唇。
 そこから紡がれる、宵闇を思わせる良く通るアルト。
 気高く誇り高い黒曜の双瞳。
 そしてその賢人の名に恥じぬ、他の追随を許さぬ智慧と先見。
 外見のみならず、内面からも齎されるその美しさから、
 中つ国のエルフをして生きた芸術と称させる君だろう」
「───お願いだからそういうことを正面切って宣わないで頂戴…」


こんな超の付く過大美化としか言い様の無い歯が浮き立って飛びそうな台詞を、
至極真面目な表情と口調でもって、
しかも該当箇所にいちいち触れながら言い寄越してくるのだから適わない。
日頃、ひょんなことで真正面からそうした甘言を受ける私はその都度、
柄にも無く、素の赤面なんて代物を不本意にも披露しなければならなくなるのだから。


「本当、殺し文句に際限の無いエルフね…」


さすがは全ての美を愛し且つ生み出す種族、エルフ。
そう、これはもう種族の違いなのだと。
思い込みでもしなければ正直やってられない。


「それでもこの私を選んでくれたのは他ならぬ愛しい君だろう?」





この甘やかな目眩を、やり過ごせない。





「無論、後悔はさせないつもりだ」
「…こっちだってするつもりはないし、させないわよ、そんなもの」





結局のところ、何を言ったところで『恋は盲目』。
実はただそれだけことなのかもしれない、なんて。

思ったのは、やり過ごすはずだったその目眩に流され行き着いた彼の腕の中だった。



新婚さんいらっしゃーい。(何が言いたい)
いや、自分でも何でこんな甘ったるいSSばかりを書き連ねてるのか判りません。
連載の方がわりとシリアスだからかな…うーん。