心番い


「………」
「ん? 何、周泰?」
「……いや」
「ああ、午後の軍議のこと?」
「…中頃に着く」
「先に孫権様のお迎えね。
 それじゃ書簡は後で部屋に直接届けさせておくわ」
「……頼む」
「お前ら、何でそれで会話が成立すんだよ…」


時は昼、兵舎の食堂の一角。
一つの丸い卓を囲むのは、呉を代表する武将である甘寧、周泰、の三人だった。


「うーん、愛の力?」
「………」
「あはは、周泰ったら照れてるー」
「……
「(照れてたのかよ!?)」


からからと笑いながら周泰の肩をぺしぺしと叩くに、
相変わらずのくぐもった声だが、嗜めるように相手の名前を呼んだ周泰。
そんな二人に、周囲の内心を代弁する至極最もなツッコミを心の内でかました甘寧。

今この場には居ないが、普段から食事を共にすることの多い呂蒙や太史慈が居たらおそらく、
そんな三人を、苦笑いを浮かべて暖かく見守ってくれていたことだろう。


「まぁあながち冗談でもない冗談はさておき」
「どっちなんだよ」
「どっちもよ。
 周泰って確かに寡黙で無口だけど、
 その分ちょっとした態度や仕草に感情が出てるからちゃんと判るわよ」
「そうかぁ?」


納得いかんとでも言うように、甘寧はぐっと眉根を寄せた。

それもそのはず。
周泰といえば冷静沈着にして不言実行を地で行くような男なのだ。
元より口数は少ないし、口を開いても必要最低限もギリギリな語数で文章を構成してみせる。
表情にしても豊かとは決して言えないだろう。
感情といった心の揺らぎを面に表すことは恥ずべきことと、
そう捉えているきらいが周泰にはあるのだ。

何を考えているか判らない。
それが周囲の周泰に対する率直且つ悪意の無い感想だった。


「そうなの。それに周泰も周泰で、特に私が何を言わなくても、
 私が何を考えてるかとか敏感に察してくれるし…そんなものよね、周泰?」
「…ああ」
「私はそれを口に出して言う、周泰は口に出さない。
 あるとしてもその程度の違いよ」
「そんなもんかねぇ…」


の回答に、やはりどこか腑に落ちないらしい甘寧は口元に手をあて首を捻る。
しかしだからといって周泰の方へとこれ以上を問い質したところで、
自分にはのような理解力は無いのだから無駄というものであろうし、
またがそう言うのならばきっとそうなのだろうと、
生来思考することに関しては人一倍面倒臭がりで持久力の無い甘寧は、
とりあえずはそう結論付けることに決めた。
そして「んじゃ、馬に蹴られる前に退散するか」と兄貴肌を見せ、
二人を残して一足先に食堂を後にしたのだった。





「…
「何?」


そんなこんなで。
ゆったりと食堂を後にし、各々執務室へと戻る道すがら、
おもむろに口を開いたのは珍しくも周泰。


「…こうしてお前が居るからだ」
「───それは…また、急な愛の告白ね」


どうやら先程の話の続きらしい。
やはり何の脈絡も無く、言葉少なにだが面と向かって突然そんなことを言い切った周泰に、
その意味するところをきちんと受け取ったは存分に目を見張る。
対して周泰は全く動揺した様子も無く。
ただ静かに、真っ直ぐの双瞳を捉える。
ともすればやはり、どうしたっては苦笑せざるを得ず。


「そんなの、私だっておんなじよ」


そう、二人が言葉無しにも判り合えるのは。





「周泰がこうして傍に居てくれるから、私は周泰の傍に居られるの」





こうして手を繋ぎ合わせるだけでなく、心も寄り添わし二人傍に居るから。



初・周泰夢。
以前のアンケートで周泰夢のリクを下さった方がいらっしゃたんで、
書いてみたんですが…なんかもう見事に撃沈というか何というか…(笑)

ちなみに『番い』は『つがい』と読んで、『一対』の意。