話してその
尊い未来の事を


「趙雲っていいお父さんになりそうよね」


言えば目を見張った趙雲は、手にした愛槍を落としそうになった。


「───は?」
「だから、いい父親になりそうって言ったの」
「それは…一体どのような根拠をもってそうなるんです…?」


手合わせ前の軽い準備運動ともいえる武器の鳴らし合いをしながら、
突拍子もなくそんなことを言い出した私の、その呟きにも似た小言の内実を問い質そうと、
趙雲は落としかけて危うくキャッチした槍の刃先を地に向けて下げた。
私もそれにならって剣先を下げる。
ついで趙雲が目線で修練場の隅を示したので、
まだ手合わせの手前なんだけど?とは思いつつも早々に休憩に入ることにした。


「だって、趙雲って子供と相性いいじゃない」
「相性?」
「そう、相性」


阿斗様は趙雲を視界に収めると、どんなに大泣きしていてもぴたりと泣き止む。
少年の兵士達は、空いた時間をみては訓練へと顔出してくれる趙雲を慕っているし、
ちょっと城下へと出れば、町の子供達ですら慕わしげに寄って来る。
どれも、趙雲が人一倍彼らに気を配って接しているからなのだが、
それを差し引いたって彼は、その爽やかな容姿と穏やかな雰囲気からか、
子供達から無条件に無垢な笑顔を引き出してみせる。

そんなこんなで、しばしば子供に囲まれている趙雲の姿を見かけては、
その微笑ましさにこの口は、気付けば緩んでしまっているのだ。


「子供好きでしょ、趙雲」
「まぁ嫌いではないが…」
「何照れてるの。
 素直に好きだって言えばいいじゃない」


照れているのだろう、歯切れ悪くそう答える趙雲に心持ち意地悪く笑って見せる。
すると趙雲はやはり穏やかに苦笑して言った。


「そういう殿だって子供が好きでしょう」


思いもよらない発言に、不覚にも虚を突かれる。
すると今度は趙雲の方が"してやったり"といった顔をしたので、
悔しまぎれに「美形はそういう顔しないの」と反論する。
ともすれば、「美形?私が?何故?」と不思議がる真顔と疑問の三連チャンが返ってきた。
この無自覚さんめ。
やってられないわよ。
そう思って「イイ男過ぎて目のやりどころに困るから」とだけ答えて、
半ば強引に、僅かにズレてしまった話の路線を元に戻した。


「確かに、可愛い子供は好きよ」
「はは、子供は皆可愛くて仕方無いのでは?」
「………さて、どうかしら」
「照れ隠しというのですよ、そういうのは」
「何なの。今日はまたどうしてか"舌"好調じゃない」
「お褒めに預かり至極光栄」


本当に何だというのだろう。
話題が子供絡みだからだろうか。
今日の趙雲の舌はいつになく滑りが良い。
女を口説く時の馬超並みに、切り返しは機智に富んで冴えている。


「それにきっと、私なんかよりも殿の方がずっと良い母親になりますよ」


そしてその口でまたしれっとそんなことを言うものだから、
爽やかで穏やかな笑顔に私は、また柄にも無く素で照れてしまったりするのだ。


「…ソレ、天然なのよね?」
「は?」
「ううん、何でもない。
 一応、お褒めの言葉として受け取っておくわ」
「一応でも何でもなく褒めたつもりなのですが」


無自覚な上に天然のタラシか。
本当にどうしようもない白馬の王子様だなんて。
思いつつも惚れた弱みから口にはできず、溜め息交じりに軽く肩を竦めてみせる。
その実、内心白旗を振っていたのはここだけの秘密だ。


「でもまぁ、褒めてくれるのは嬉しいけど、
 期待に応えようにもまず母親になるための相手がいないしね」
「そんなことを言ったら私とてそうですよ」
「あはは、趙雲なんて引く手数多でしょうに」
「………」
「趙雲?」


…何かまずいことでも言っただろうか?
端正な顔を、生真面目にも小難しく歪めて趙雲は黙り込む。
しかもそれは、戦前に布陣図を見て陣形を確認する時に見せるような真剣な表情で。


「趙、雲…?」


少なからず不安になって再度の名前を呼ぶ。
すると趙雲は考え込むに顎へと添えた利き手をそっと外し、
重心を預けていた欄干から腰を上げると、
真剣な面持ちをそのままに私の方へと真っ直ぐに向き直った。
思わずつられて姿勢を正す。


「ど、どうしたの?」
「いえ…ただ」
「ただ?」


ああ、姿勢など正している場合ではなかったのに。





「もし貴女が私の子の母親となって下さるのなら、
 このような私でも、何とか良い父親にもなれそうな気がすると、そう思いまして」





身構える暇さえ与えられなかったそれに、受け身などとれるはずもなかった。





「…口説いてるの、それ?」
「一応」
「酔ってる、とか?」
「見ての通りの白面です」
「ええと…ということはつまり?」
「はい」


私のプチパニック状態がよっぽど物珍しく面白かったのか、
趙雲は堅苦しい表情を、ふわりと柔らげて言う。





「私の子の母親と、私の妻となって頂きたい」










「───母親の方はまだ何とも言えないけれど…、
 趙雲みたいな素敵な旦那がいたら、こんな私でもどうにかいい妻になれそうな気がする」



子守り将軍は口説くネタも子絡み。(笑)
要するに「私の子を産んでくれ」と、つまりはそういうコトで。←直球過ぎ

趙雲夢は結構リクエストを頂いていたんで、書いてみたんですけど、
書いてて何やら凄く楽しかったです。
私の中で趙雲は、座木さんに次ぐ天然のタラシに大決定。
リクして下さった方々、どうぞ貰ってやって下さい!