my place, your place.


「この間、有栖川先生に『生まれ変わるとしたら何になりたい?』と聞かれました」
「またくだらねぇ会話をしてるな、お前ら」


隣を歩くその人は協調性の欠片も無く、心底つまらそうな顔をしてそう言い捨てた。


「あいつの答えなんざ目に見えてるが…、お前はなんて答えたんだ」
「『特に生まれ変わりたいと願うものはありませんが、
  火村先生にだけは絶対に生まれ変わりたくありません』と」
「…言ってくれるな」


端から聞いても実に失礼千万な回答。
もはや憎まれ口と言っても憚りない。
それを臆することも無くこれもまた実にきっぱり言い放った自分に、
相手は半眼にも片眉を跳ね上げた。


「ただ、火村先生に"生まれ変わり"たくはありませんけど…」


そんな表情も好きですよ、なんて。
今口にしたらこの人はどんな顔をするだろう。
考えはするけれど、決して実行はしない。
伝えない。
だから伝わらない。
それは当然の帰結。

けれど。


「…私が火村先生なら良かったのに」


そう、私が彼ならば良かった。


「私が火村先生なら、私のこんな捻た言葉なんてなしにも、
 何もかもがありのままに、そのまま率直に心の内が伝わるのに」


好きだ、なんて。
言葉にせずとも真っ直ぐに伝わっただろうに。


「火村先生が私なら良かった。
 そうすれば先生の心の内なんて何もかもが明け透けて。
 不安になったり、不用意に疑ったり、独り怯えたりせずに、
 先生の感情も自分の感情も、受け入れるのをいちいち躊躇ったりしなくても済むのに」


そう、彼が私ならば良かった。

好きだ、なんて。
そんな彼の言葉に不安を覚えたり、どこかで疑ったりなどせずにいられるのだろうに。
ありのままの感情をそのままに、一切を損なうことなく受け入れられただろうに。


「私が火村先生で、火村先生が私だったなら…」


私が彼ならば良かった。
彼が私ならば良かった。


「私が…」
「馬鹿野郎」


頭上から降って来た低音に、顔を挙げる。
そこに在ったのは日頃と変わらぬ仏頂面。
けれど何処か穏やかな雰囲気を内に潜めたそれ。


「俺は、お前がお前で、俺が俺で良かったと思う」


そう、火村先生の言葉は。
自分のものではない、低く、滑らかで、良く通るその声は。
いつだってこの胸の奥に穏やかな波紋を投げ掛けて。





「でなきゃこうしてお前と二人、憎まれ口を叩いたりできないからな」





互いを互いの鑑として映して。
彼の、私の、その心の内を伝えて、胸の内を溢れ返らせてみせるから。





「お前がお前で、俺が俺で。
 互いに別個の存在で良かったんだ」





そう。
私の中に彼の居場所があるように、彼の中にも私の居場所があるのだと。
一人と一人であるからこその二人で良かったのだと。


あやすように頭に添えられたその乾いた大きな掌の感触に、実感した。



人間の深層意識というものは、"深くて暗い湖"のようなものなのだと思うのです。

愁サマからの123456hitsキリリクで、火村とアリスとの出会いを。
もうカウンタ見れば判りますが、ホンマいつの話やねん的なupで申し訳無い…!
こんなんでもチロっとでも楽しんで貰えれば幸いです。