It's a easy.
昔から何度も考えたことはあった。
「知り合いの弁護士から聞いているよ。
あんたがハンター気取りの名探偵だって。
犯罪者を蝶々みたいにコレクションしてる正義の味方か───」
火村が殺したい相手とは誰か?
「その人はあんたのことをバケモノだと言ってたよ。
警察官でもないのに犯人を狩りたてて喜ぶなんてこと…」
そしてもう一つ、このところ考えることの多いことがある。
「まともな神経では出来ないものな!!」
彼女は何故探偵を辞めたのか?
「火───…」
推測や推論の類いなら数限りなくいくらでも浮かび上がるが、
結局何の確証も無いそれは推して計っただけの代物にとどまるばかりで、
浮かぶだけ浮かべばまた思考の海へと沈んで跡形も無く消え失せる。
真実は闇の中。
これもあながち格好を付けただけの言い回しではないと思う。
まさに真実は闇の中。
彼らが心に抱えた闇の中。
「、ちゃん…?」
なぁ、火村。
お前が夢で殺す相手は誰なんだ?
「───バケモノで結構ですよ」
なぁ、ちゃん。
「何なら、私の標本第一号にして差し上げましょうか?」
逃げ道を塞いでまで、君が自分を決して許さない理由は何なんだ?
「」
初めて触れた、彼女の怒り。
呼吸すら奪う絶対零度のそれ。
火村の声に、はっと我に返る。
けれど彼女は名を呼ばれたというのに何一つとして反応を返さなかった。
睨み付けるでもなく、蔑視するでもなく、
ただ川辺氏だけを視界の中心へと据えて恐ろしい程に静かにその気配を内側へと潜めていた。
自分の立ち位置からは彼女の表情を窺うことはできない。
火村が動く。
傍らへと立つ彼女の頭へと、控えめにもあやすようにその掌を乗せた。
ふっと、彼女の怒りがほどけた。
「こうするしかないんだ」
『人を殺したいと思ったことがあるから』。
火村はそう言った。
『"見殺し"とは最も安易な殺人です』。
彼女はそう言った。
彼女は知っているのだろうか。
火村が夢の中で殺すという相手を。
火村は知っているのだろうか。
彼女が見殺しにしてきたという人々を。
「帰るぞ。アリス、」
「あ、ああ…」
「はい」
だからこそ二人は、揃って事件現場へと立つのだろうか。
「…よし。夕飯は有栖川邸で済ませるとするか」
「はぁ!? 何を勝手ことを…」
その傷を舐め合うでもなく。
独り心に闇を抱えたまま、過去に未来にと犯罪者を狩るのだろうか。
「おい、」
「何でしょうか」
「和食が食いたい」
「…有栖川先生の意志は何処に?」
「気にするな」
「何やそれ!?」
「お前もいちいち細かいことを気にするなよ。俺はしない」
「しろよ!」
いや。
そんなものただの深読み、自分の勝手な妄想でしかないのかもしれない。
「お前が好物と絶賛してたの手料理だぞ」
「ぐ…っ!」
方や臨床犯罪学物として、方や元探偵として。
二人が揃って現場に立つ理由など単に成り行きというものの結果であって。
「…それで、最終的に私はどうしたら良いんでしょうか」
「とりあえずは買い出しだな」
「ですから台所をお借りする有栖川先生の意志は…」
「それもとりあえずは無視していい」
「火村!」
そう、それはただ。
「…何か夕飯のリクエストはありますか、有栖川先生?」
「くそ…っ、何や悔しいからパスタがええ」
「まるでガキだな」
「放っとけ」
自分が友人として彼等と行動を共にするように。
「和食とパスタ……鶏そぼろと牛蒡の笹掻きスパでどうですか?」
「…譲歩してやる」
「…右に同じく」
ただ一緒に居たい。
単にそれだけのことなのかもしれない。
うっかり調子に乗ってまたもや有栖川有栖をup。
というか私は火村とアリスとヒロインの三人一緒のほのぼのが好きみたいです。
ツッコミ、ボケ、フォローと役割分担はばっちりできてますし。
三角関係とかでなしにnot恋愛な…何だかそんなんばっかですね、ウチのサイト(汗)