Attraction of... .


「月って本当はどんな色をしてるんでしょうね」
「月の色、か…」


冷たく冴えた空気。
月明かりに照らし出される闇。
そんな中、私の隣を歩くのは我らがEMC部長・江神二郎。

雲一つ無い夜道をこうして二人で歩いている理由といえば至って単純、成り行きで。

閑人と書いて誇り高くヒマジンと読む、
我らがEMCのメンバーが当然の如く一人として欠けることもなしに、
集まっては江神さんの下宿で開かれたささやかな飲み会。
酔いの感覚すら回ることのない自分は、
やはり早々に酔いつぶれたモチさんと信長さん、アリスを後目に、
「お疲れ様でした」と腰を上げたところ、
家主の江神さんに「送る」とのありがたいお言葉を頂き、
とりあえず「平気ですよ」と一度は丁重に遠慮の意を示して見せたのだが、
けれどやはり江神さん相手では有り合わせのなりふりでは振り切れず、
結局はこうしてしっかりと甘えさせて貰っていた。


「太陽は黄道、月は白道言うくらいやから白やないか?」


白道とは英語でecliptic。他にはmoon's pathやlunar pathとも言うが、
要するに黄道と同じく、地球上での月の見かけの通り道筋。


「でも月は空気中の浮遊物によっては赤く滲んでも、青く白んでも見えますよ」
「なら、燃え盛る太陽の光を反射して光ってるんやから黄色っていうんはどうや?」


確かに絵や画で見る月には、黄色がその役割を与えられていることが多い。
小学生の描く歪んだ円や弧なんかがそれだ。
けれど、そこはそれ。
隣りを歩くのは我がEMC部長にして、メンバー全員が惚れ込む頭脳の明晰さを誇る江神二郎。

その程度の回答ではつまらない。


「太陽の光の色は白色光でしょう」


私が見えていると錯覚している色というものは、実際には眼球の光受容細胞を通して、
神経の活動に変えられる極限られた範囲の電磁波に過ぎず。
各々の色は、各々の光に含まれる電磁波の波長が対応する色として感じ取れるというだけ。

そして先程の太陽の光こと白色光は、そうして全ての電磁の波長を含んでいるため、
人間の目には特定の色として見えることはない。

そう、実のところ太陽の光だって白ではないのだ。


「白色光は色として見えんやろ」


やはりアリスとはつくりが違うらしい。


「ええ、そうですね」
「…試したのか?」
「さぁ」


江神さんが私ごときの布石につまずくことはなかった。


「───でも、こうして今見ている月は柔らかな薄黄色ですね」


いつの間にか互いに滞っていたささやかな歩み。
暗く冷たく、静謐な夜道はどこまでも二人きりであるような感覚を引き起こして。
隣り立ったこの人を独占さえしているような気分になる。

浅ましい。


「月の色、か…存外にけったいなもんやな」


ふと視界の端で、口元から煙草を離した江神さんがふうっと煙を吐き出す。
太陽の光の下では紫のそれも、月光の下では白く燻って。
その光景に、本当に月そのものが白い光を発しているのではないかと本気で思えてくる。

ああ、錯覚ばかりだ。


「ええ、本当に」


月に関しても。
この人に関しても。





「もっとも、そうやって色々な色に見えるからこそ、
 こうして特別な感情を抱いてやまないのかもしれませんね」



月=江神さん。
ぶっちゃけ好きだと、さり気なく告ってみたり。(笑)
江神さんのSSは特に雰囲気にこだわって書いているんですが…どうなんでしょう。