蕩尽に関する別考察 12








「疲れたか?」
「…そう、見えますか?」
「ああ」
「…確かに疲れていない、と言ったら嘘にはなりますね」
「そうか」
「はい」


「………」
「………」


「…蕩尽という行為の辿り着く先には何があると思いますか?」
「蕩尽の結果、か?」
「蕩尽の結果と、その先にあるものです」
「その、先…?」


「蕩尽とは財産を湯水のように注ぎ込んで使い尽くすこと。
 ともすれば蕩尽の後に残るのは『無一文』、
 つまり金銭等の資産を全く持ち合わせていない状態です」
「そうやな」


「どんなものなんでしょうね」
「蕩尽する感覚か…」
「いいえ」





「『無一文』になった後の気分です」





「無一文になった後の、気分…」
「払いたくても払えない。
 立場を逆転して考えれば、払わせたくとも払わせることができない…」



「更に言い換えれば、"払いたくなければ払わなくて良い"」
「───!」


「被害者側にすれば、払わせるにしても払わせるものが無いわけですからね」


「…私には想像することしかできませんが」


「無一文になった後の気分というのは、
 これ以上失う物が無くなった状態というのはおそらく、顧みるものが無いが故に、
 恐れるものなど何も無いというような一種の麻痺感を与える…、
 振り返らせるしがらみが無いという現実は、
 人に自己全能感にも似た感覚を与えるものです」


「一種尊大な開き直りを可能にさせるわけですね。
 何を犯しても恐くない…応報の全てはどうせ自分にのみ返ってくるのだから、と」
、お前…」
「………」





「…単なる独り言です。聞き流してやって下さい。
 送って下さってありがとうございました…おやすみなさい」










何て、卑怯な。
何と、中途半端な。

そうして私はまた"助言"を押し付けて、逃げた。


これで駄目ならばそれまでだと。
けれど、もし間に合うのであればもしくは、と。





溝口氏の運命を、江神さんへと身勝手にも委ねて。



ちょっと今までに無い感じの文章に。
そしてミステリーズ未読の方には解決前の最後で最大のヒントとして。