蕩尽に関する別考察 7








「ねぇ、有栖川君」
「何?」
「なんていうか…さんってああいう人だったのね」
「『ああいう人』?」


三講目の講義室へと向かって並んで歩いていれば。
隣の彼女はふとそんな事を口にした。


「というか有栖川君とさんがあんなに仲が良かったなんて正直驚きだわ」


一年も経った今だからこそもうそれほど不思議と感じることはないが、
確かにと出会って数カ月間は、やはりその手の違和感とも言える感覚を覚えていた。
何故自分などが彼女と仲が良いのか、と。
それが何故自分で、それが何故彼女なのか、と。

が、こうして他人から言われたの初めての事であるような気がした。


「…まぁ、そうやろな」


と自分。
性格も違えば考え方も丸っきり違う。
共通点といえばミステリ好き以外に探しようがない。
しかもは所謂"全てにおいて人並み以上"という"非凡人"の部類の人間であるから、
たとえそれが初体験の物事であっても大概は器用にこなしてみせる。
それこそ全てにおいて不器用な自分とは実に大違いで。

そう、自分はに。
多少なりとも劣等感を抱いていたことは確かだ。


「で、のどこら辺が『ああいう』人なん?」


今や互いに親友と自負できる仲だから何とも思わないが、
これがただの友人、サークル仲間程度の付き合いの時点で言われていたのなら、
つまらない劣等感やくだらない狭心から、自分はさぞや腹を立てていたことだろうと思う。
実際にそういった劣情を抱いたことが何度かあったものだ。


「ほらさんって凄く綺麗…というか整った顔立ちしてるでしょ?
 あと独特の雰囲気を持ってるっていうか…何ていうか『近付くなオーラ』、みたいな?」
「何やそれ」
「まぁまぁ。それに法学部では結構有名じゃない、彼女」
「ああ、確かに…」


そうなのだ。
彼女曰くの『整った顔立ち』と『独特の雰囲気』に加え、
いつだったか刑法の講義中に指名された時に、完璧な解答でもって対応したがために、
無闇に突っかかってきたその教授を返り討ちにも論破した事などから、
は法学部ではわりかし広く顔と名前を知られているのだった。


「何かちょっと意外だったかな」
「意外?」
「うん、意外。
 何かもっとこう冷たい人だと思ってたんだけど、そうでもないんだなぁって」


彼女にそう言わしめる理由といえばおそらく、
先程のモチさんや信長さんとの会話のせいだろう。
漫才じみたそれにが拒絶反応を見せなかったどころか、
何のことは無くツッコミすらかましていたことに、良い意味で裏切られたらしい。


「まぁこれは私の先入観の産物だったわけなんだけどね」


言って、ちろりと小さく舌を出して彼女は苦笑した。
対して自分は精一杯の穏やかな笑顔を返して見せる。

それは嬉しかったから。
その性質故にあらぬ誤解を受けることの多いの、それを払拭できたことが。
大切な親友の少しでも多くを理解して貰えたことが。

そっと脳裏に甦るの過去の言葉。





『語らずとも私の多くを理解してくれる、ありのままを受け入れてくれる、
 有栖川有栖というたった一人の友人が居ることを私は誇らしく思う』





───僕も君というただ一人の友人と巡り会えたことを誇らしく思うてる。





「良い友達になれるかな?」
「そうやね。たぶん気が合うと思うよ」


君もも気が強いから、と。
意地悪く言えば、彼女は「それは楽しみ」と言って小さく駆け出した。


「あと1分」


『それは楽しみ』。


「走らないと出席表貰えなくなるわよ!」





とりあえずは任務完了、か?



何やらアリスとの友情SSになってしまいました…大満足です。(笑)
閑話休題チックに挿入小説。
つーか、マジで収拾つかなくなってます−…!(汗)