「───テメェら、いつか必ず殺してやるからな」
黒ずみ窪んだ目元の男はありったけの殺意込めてそう吐き出した。
「御自由に」
黒い髪に冴えた表情の女は何の感慨も込めずにそう言い捨てた。
I am in your sweet insanity.
「ご苦労様でした!」
事件解決により引き上げ命令が出て、各々現場の後片付けに入る警察官達。
その中でもJDCに対してわりと好意的な者や、もしくは一種の憧れを持つような者達は、
こうして事件の解決後、きっちりと敬礼付きで挨拶をしに来たりする。
「ご苦労様」
「ご苦労様でした」
それに対しにこやかに、爽やかな笑顔でもって労いの意を込め答える黒衣の探偵と、
にこりともせず、形式的で機械的な礼でもって返す黒髪の探偵。
酷く対照的で違和感を覚える二人。
それでいて何処か調和を見せる二人。
「では我々も本部に戻るとしようか、嬢」
「そうですね」
JDC第一班龍宮城之介に特別契約班。
無事に事件を解決した二人は、ゆったりと帰路に着いていた。
「───しかし、さっきのは感心できないな」
「さっきの、ですか?」
何の事だか全く心当たりがないといったように、は軽く眉根を寄せる。
「あんな犯人を煽るような物言いはどうかと思うが?」
「ああ…、あれですか」
───テメェら、いつか必ず殺してやるからな
───御自由に
今回の事件の犯人が、連行されざまに叩き付けてきた逆恨みも甚だしい殺意。
「相手にしていたらきりがないもので…大概はあれで済ましているんですが」
「もし本当にあの男が言葉通りを実現しにやって来たらどうするんだ?」
凶悪犯罪との格闘とて、常に高見の観客席から推理と洒落込んでいる訳ではない。
凶悪犯罪とは単に現象の総称であり、その中核にある実質はつまるところ人間で。
その人間を同じ高さ、下手をしたら一段も二段も低いの舞台で相手にしている以上、
常に生身の危険を伴っているのだ。
「その時はその時ですよ」
なのに、あまりにも何気なく本気でそう言い放つに、
呆れたように眼を見開いてその歩みを止める城之介。
けれど、次の瞬間には口元に手を添えると、どこか俯き加減に。
「───気に入らないな」
と、彼にしては不相応に低めの、すごみの利いた声でそう呟いた。
「…なら、あれ以外に何と言えと?」
しかしそれに対して少しもたじろぐこともなく、心持ち無愛想に返す。
すると城之介は、「ああ、違う違う」といつもの表情に戻り、
口元にあった手をはたはたと左右に振ってみせた。
「嬢の物言いに文句を付けている訳じゃないんだ」
「なら何が気に入らないんです?」
「うーん、そうだなぁ。敢えて言うなら『可能性上の犯人』かな?」
「可能性上の、犯人…?」
珍しく素で苦笑というか照れ笑いする黒衣の探偵に、思わずそのままの単語を反唱する。
「要は、嬢が龍宮以外の人間に殺されるのは癪だな、とそう思ったんだよ」
「…どうして?」
「だって、生きている嬢の瞳に、最後に映るのがその男かもしれないだろう?」
今度はしっかりと苦笑を敷いて。
「それはやはり悔しい」
龍宮は嬢のものなら何一つとして、
たとえそれが嬢の『最後』であっても誰にも譲りたくないんだ、と。
どうしてか困ったように微笑った。
「───だからといって龍宮さんに殺される気はありませんよ」
それこそ完全犯罪に成りかねないですし総代の仕事が増えるので勘弁して下さい、と。
こめかみの辺りから髪を書き上げるに対し、
一方の龍宮といえば、そんな彼女の様子に今度は満足気に微笑んで。
「龍宮だってそんな気はさらさらないさ。
まぁ、嬢に殺されるならそれはそれで悪くないかとは思うけれどね」
「笑えないですよ、そういう思考」
「それはそうだろう。龍宮は至極本気だからな」
JDC強化週間第3段にして龍宮氏。
何だか、ウチの龍宮さんって結構危ない事言ってますよね…(笑)