※以下★☆★はチョコレートを渡すタイミングです。
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2月14日、バレンタインデー。
それは恋愛の免罪符を押し付けようが叩き付けようがのし付けて送りつけようが許される日。
とりわけ、日本においては製菓業界の陰謀色濃く渦巻く日。
「ー!」
「音夢。おはよう」
「おはよーう」
JDC正面玄関ロビー。
今日は、女性はドキドキ、男性はハラハラなバレンタインデー。
こうして並んで歩く、第二班の九十九音夢と特別契約班のも、
例にも洩れずちゃっかりとイベントに便乗していたりする。
一方は毎年恒例の一行事として、また一方は付き合いで、と心の在り様はまた別の話だが。
歩みを進めつつ、「あ、そうだ」と思い出したようにの方に向き直る音夢。
そうしてぺこりとおじぎを一つ。
「昨日は大変お世話になりました」
「ああ…別に、大した事してないし」
「ううん! に教えて貰ったからあれだけ上手にできたんだよ」
昨日、仕事が終わると音夢とは二人仲良く帰っていった。
前々からバレンタインチョコを一緒に作ろう!という約束をしていたからだ。
「ちゃんと持って来た?」
「まぁ、一応…ね」
そうしての家で作り、持ち帰ったたくさんのチョコレートを、
2つの色違いの紙袋に分けて手に提げている音夢。
彼女と似たような姿をした女性は、今日のこの日本にどれだけ溢れていることか。
しかし、一方のといえば普段と特に変わった所はない。
「よし! それじゃ早速出陣!」
「………出陣って…」
何はともあれ、出陣です。
─────────
「まずは第二班室ね!」
音夢の言葉に従い、エレベーターを降りて廊下を進み第二班室へと向かう。
「───音夢。聞きたかったんだけど、そんなにたくさん一体誰に渡すの?」
「ええっと、とりあえず第二班は螽斯さんに、若さま、あとは氷姫宮さんとか…。
第一班は九十九兄さまに龍宮さん、舞衣さんとか…あとは総代と舞夢さんにも!」
「だからトリュフにした訳ね」
トリュフは手軽に大量生産できる上に、味もそれなりに高級そうに仕上がる、
バレンタインには欠かせないレシピの一つだ。
「えへへ、あ!にも後でちゃんと渡すからね」
「楽しみにしてるわ」
★☆★
第二班室到着。
ここまでの僅かな距離で二人の荷物がいくつか増えたのは、
やはり二人の人徳と班位のせいか。
しかもに限っては女性だけではなく何故か男性からも渡されていた。
ホワイトデーはどうする(どうしたい)んだろうあの人達、と心中密かに思う音夢だった。
「失礼しまーす」
自分が所属する班室であってもきっちりノックして入る、礼儀正しい音夢。
そうして開いたドア向こうにはまばらな人影。
「おはようございます」といういつも通りの音夢の明るい挨拶に、
面白いように過敏に反応する男性陣。
声の聞こえた方向に勢い良く振り返る者、どっきーんというゴロが見える程に硬直する者。
ある者は持っていた書類を垂直に落としたり、
またある者は文字通りの挙動不審とそれは様々だった。
JDC探偵とて所詮は人間、一人の男である。
★☆★
そうこうして音夢が目当ての人間にチョコを渡し終えるのを見計らって、
ゆったりと第二班室を後にした二人。
その背後からは、うっかり(本命でもおこぼれでも)期待なんてものをしてしまった、
男性陣の吐き出した心底の溜め息と失望感が、生温い空気となって一斉に押し寄せてきた。
「ああまでいくと哀れね」
「? 何が??」
「こっちの話。さ、次は第一班でしょ」
「うん」
そんな淀んだ空気が外へと漏れるのを防ぐかのように、
ぴしゃりと容赦無くドアを閉めたに促され、
二人は少しばかり足早にエレベーターホールへと向かった。
ボタンを押すと、タイミング良く下から来たらしいエレベーターの扉がゆったりと開く。
★☆★
チーンというやたらと可愛らしい音と共に到着したのは第一班室のあるJDCビル最上階8F。
今度は、所属はしていないが同等の扱いを受けている小百合が第一班室の扉を開いた。
するとそこに居たのは、デスクで郵便物処理に勤しむ総代補佐・半斗舞夢と、
第一班紅一点にして消去推理の貴婦人・霧華舞衣。
「あら、おはよう二人とも」
「おはよう、音夢ちゃんに」
揃ってにこやかな笑顔でもって声を掛けてくれる先輩二人に、
後輩二人も舞夢のデスクまで寄って挨拶を返した。
「おはようございます舞衣さん、舞夢さん」
「おはようございます」
「ふふ、その手に提げてるのは本日の戦利品ね?」
「はい。ちゃんと舞衣さんと舞夢さんの分もありますよ!」
「ありがとう。でもがそんなに作ってくるなんて予想外だったわ」
の事だから1個、多くても3個くらいだと踏んでたんだけど、
と、舞衣はの手元へと視線を送ってそう言った。
「それが違うんですよ、舞衣さん。が持ってるのは全部貰い物なんです。
しかもびっくりなことに男性から貰ったものもいくつかあるんですよ」
「まぁ、男性からですか?」
「そうなんですよー、舞夢さんも驚くでしょう?」
「でも、受け取った本人はそれほど嬉しくなさそうね」
苦笑を交えて話を振ってきた舞衣に対し、幾分疲れたような面持ちと声色で。
「チョコレート、苦手なんですよね…」
と、は小さく愚痴を零した。
★☆★
女性の先輩達としばらくは他愛も無い話をして。
両者にチョコを渡し、また渡された二人は最終目的地へと向かった。
そう目指すはJDCの最高峰、総代室。
「そういえば、総代ってあんまり甘い物とか好きじゃなさそうだよね」
「そうね。蒼也なんか砂糖を嫌遠してる節があるし」
「うんうん。コーヒーにも紅茶にも砂糖入れないもんね」
はっきり言って、総代にチョコをあげようなんて考えるのも、
渡すために直接総代室に赴こうとするのもきっとJDC内では彼女達だけだ。
世界最高の探偵、日本探偵界の頂点とされ、
他の探偵達から尊敬と畏怖の対象とされる総代も、
彼女達にとっては家族のようなずっと身近な存在であるからだろう。
そしてその総代といえば、今頃は葉巻きをふかして一息吐いているはずだ。
舞夢に前もって聞いておいたのだから間違いない。
「ねぇ、」
「何」
そんなこんなで、目的のドアの前へと到着した二人は。
「うーん、やっぱり何だかちょっと緊張するね」
「…確かに」
軽い深呼吸の後、心持ち姿勢を正して総代室の重厚な扉をノックした。
★☆★
「「失礼しました」」
最終目標も達成した二人はゆったりと総代室を後にした。
「ふわぁ、何だかあっという間に終わっちゃったね、バレンタイン」
「…そう? 私には相当長く感じられたけど…」
「あはは、甘いもの苦手だもんね。
でもったら、結局誰にも渡してないよね?」
「ああ。そういえば」
「そんな、『そういえば』って…」
別段特定の誰かにあげようとか考えてなかったし、と呆気らかんとして言う。
じゃあどうしてチョコ作ったの?と目を見張ったままの音夢が聞き返せば、
欲しいなんて言う危篤な人間がいたらそのまま渡そうと思ってた、などとあっさり返された。
「可哀想なみんな…欲しがってた人結構いたと思うよ?」
「結構かどうかは知らないけど、欲しいなら欲しいとそう言えば良かったのよ。
言えば渡したもの。自己主張の無いの人間は無視されても仕様がないでしょ」
「でも自分からくれっていうのはやっぱりちょっと図々しくない?」
「そこはその人間の語彙力と表現力ね」
「………そういうもの?」
何か違う気がする…と聞き返そうと思ったが、
戻ってくるだろうの返事きっと『さぁ?』。
今まで自分がチョコ渡してきた面々を思い出すと、音夢は苦笑せずにはいられなかった。
「でもまぁ、らしいっていったららしくはあるんだけど」
「…どういう意味なの、それ」
そういう所が♪と楽し気に笑って一歩先を行く音夢。
「まぁ、いいわ…はい、お疲れさま」
そんな彼女に向かって、そう労いの言葉を掛けたはチョコを差し出した。
「え? いいの?」
「このまま持って帰っても私は食べないし」
「そういう問題じゃない気がするんだけど…」
「処分方法は音夢に任せるわ」
「もー!」
なんて苦笑を噛み殺し、咎めるような表情を作りつつも、
最終的にはやっぱり苦笑して、がそうしたように可愛らしい箱を手渡した。
「じゃあコレは私から。今日はお疲れ様でした」
「ありがとう」
「うーん、皆には申し訳ないけどやっぱり私ってば役得」
「……は?」
「いーえ、何でも!」
さて、今の一連の会話をみんなに告げたら次のバレンタインはどうなることやら。
「来年も一緒にチョコ作ろうね!」
「そうね」
Do you have a happy happy Valentine?
JDC強化週間第4段にしてうっかり気付いてしまったバレンタイン企画。
一応5+1人で、一話一話分岐した時点で話が終わるようになってます。
たくさんの方に楽しんで貰えますように!