You know
how much I care it.


左手の中指に、控えめに光るのは見新しい銀色の輪。


「お前新しい指輪買ったんだな」
「ああ…これは氷姫宮さんから貰ったの」
「───は?」


表情ごと、一気に不機嫌になるのは左隣を歩く蒼也。
眉根を寄せて眉間に皺を寄せたそれは、しかめっ面と言ったら一番相応しいもので。
思わず溢れそうになる笑いを寸止めで噛み殺し、平静を装ってみせる。


「この間仕事でフランスへ出張だった氷姫宮さんからのお土産」
「………で?」
「『で?』って、これ以上どんな説明が必要なのよ」


蒼也の言わんとするところはきっちり判っていて。
判っていてはぐらかす。
気付いていてとぼけてみせる。
必要な所は欠落させて、肝要なところは曖昧に。

けれど、そんなことは蒼也にも何となくは判っているんだろうから。


「何で嵌めてんだよ」
「指輪は指に嵌めるものと思っていたんだけど」


更にその不機嫌さを煽るように、
「違うの?」と嵌めた左手を目線の先まで持ち上げてみせる。


「お前…、普通嵌めるか?」
「指以外に嵌めるところがあるのなら是非御教受を」

「───軽い冗談じゃない」


他の男から貰ったものを、自分の前で身に付けるのか、と。
目で訴えるというよりはむしろ非難するような視線を投げ付けてくる、
そんな女冥利に尽きるような台詞を無意識にしろ態度で表す蒼也に、
ああ、ちょっと遊び過ぎたかしら、なんて少しばかり肩をすくめて見せて。

でも、あと少し。
もう少しだけ、と。


「私、これ以外に特に指輪なんて持ってないし」


こんな熱を帯びた感情を抱くのは蒼也だけなんだから、と。
そう心の中で微かに笑って。


「折角、素敵な男性から頂いたものだし、ね?」


銀のリングへと口付けた。


「───…」
「蒼也?」


すると口付けた左手の、その手首の辺りを気持ち荒く掴まれる。
掴まれたと思うとそのまま乱暴でない程度で力任せに引っ張られたため、
歩道向かって右寄りの進路は徐々に左側へと修正されていった。

僅かとはいえ、触れた分だけ二人の間の距離は先程よりも近くなって。


「そこの角、曲がるぞ」


掴まれていたはずの手は、どちらともなく自然に繋がれて。


「何、突然」
「指輪。買うんだよ」
「…仕事はどうするのよ」
「十分間に合うだろ」


幾分早められていた蒼也の歩調は段々と、自然と自分のそれに合わされて。


「強引」
「うるせぇ」


二人で歩く。


「開き直り」
「放っとけよ」


二人で想う。





「好きだけど、そういう所」
「───ッ! …くそっ」





ああ、結局は好きなのだと。










『はい、これ。この間のフランス出張のおみやげだよ』
『ありがとうございます。…でも指輪、ですか?』
『ああ、大丈夫。下心なんて無いからね』
『…御忠告どうも』
『はは。でもこれは二人へのおみやげ、かな?』





「今度飲みに行く時は私の奢りかしら」
「あ?」
「こっちの話」





───蒼也の前で嵌めててごらん。きっと効果覿面だから───



JDC強化月間第7段にして、最後は蒼也SSでした。
ヤキモチ妬きは書いていて楽しいですが、ネタが尽きないから不思議です。(笑)

JDC強化月間もこのSSで最後です。
この1ヶ月間、JDCしか更新してませんでした…うわぉ。
強化月間の間たくさんの人からBBS、メールで感想頂けて本当に嬉しかったです。
本当に、本当にありがとうございました!