Want to eat.
「こんな所にいたのか、嬢♪」
またか。
またなのか。
というかまた何だな?
そう思ったのは、名を呼ばれた本人のみでなく。
彼を除く、その場に居合わせてしまった『こんな所』にいる全員だった。
「…何の御用でしょう、龍宮さん」
「良かったら、昼食を一緒にしないかと思ってね」
まただ。
まただよ。
というか本当にまただった。
そう溜め息を吐いたのは、またしても誘われた当人のみでなく。
彼を除く、その場に居合わせてしまった第二班室の全員。
「龍宮さん、昨日夕飯を御一緒しましたよね?」
「ああ。あそこのカルボナーラは絶品だったなぁ」
「…一昨日は昼食を一緒にとりましたね」
「JDCの食堂のハンバーク定食は龍宮のお気に入りなんだよ」
「…………ここ一週間、龍宮さんと食事をしない日は無いのですが」
「それはそうだろう」
龍宮がこうして毎日迎えに来てるんだからな、と。
振り切ろうとすれば何て事はなく、
子供のようなあどけない笑顔であっさりと喰らい付いてきた。
確信犯か。
確信犯なのか。
というか確信犯以外に有り得ない。
そう心中呟いたのは、しつこいようだが笑顔を向けられた彼女自身のみではなく、
彼を除く、その場に運悪く居合わせてしまった探偵全員だ。
「一体何だっていうだよ、龍さん」
見かねた蒼也が呆れ顔というよりはむしろ諦め顔で、脇から力なく突っ込みを入れる。
だが助手の突っ込みなんて何のその、周囲の疲れた雰囲気もものともせず、
黒衣の探偵は柔らかく笑みを敷いたままに。
「何って…見ての通り、嬢を食事に誘っているんだが?」
穏やかにボケ返した。
「あのなぁ…そのボケわざとだろ?」
「聞くまでもないよ、蒼也。あの笑顔だって100%打算だ」
「む。氷姫宮氏まで失礼だな」
龍宮のどこがボケてるっていうんだ?龍宮はまだそんな歳じゃないぞ、なんて。
ここまでくると、突っ込みどころが一挙に満載過ぎて、
もうこれ以上どこにどう突っ込んで良いのか本気で判らなくなる。
『ああ言えば、こう言う』
これ以上この言葉が相応しい状況があるだろうか。
まぁ、この場に即して言えば、
『(お約束通り)ああ突っ込めば、(予想通りに)こうボケる』といったところだが。
「それともこの後何か予定でも?」
「特に予定はありませんが…」
「じゃなければ、体調でも悪いとか──」
「特に悪いところもありません」
「ということは、龍宮が相手では不服だと、そういうことかな?」
そう、この手放しに抱き締めてしまいたくなるような満面の笑顔が曲者なこの男は、
周囲をして言司探偵と言わしめるこのJDCきっての推理貴公士は。
こうして言葉を巧みに操っては、一つ一つ嫌味なくらい丁寧に逃げ道を塞ごうとするのだ。
「なら氷姫宮さんも一緒に…」
「行ってらっしゃい。」
「………何ですかその貼付けたような爽やか過ぎる笑顔は───蒼也」
「悪りィな。って、そんな目で見るなよ…俺らじゃ明らかに役不足だっての」
「……………薄情者」
触らぬ神に祟り無し、君子危うきに近寄らず、とでも言いたいのだろう。
助け船すら出す気の無いらしい二人も多少は罪悪感を感じているらしく、
「すまん」と素直に詫びてきた。
勿論目線で、だが。
役者や舞台は違えど、ここ数日幾度となく繰り返されてきたこの展開。
「嬢?」
「───御一緒、させて頂きます」
そして結局のところ、自分はといえば。
絶壁まで追いつめられた訳でもないのに、逃げ道だってまだいくらか残っているのに、
やはり負けを認めざるをを得なくなるのだ。
そう、あのタチの悪い笑顔のせいで。
「ただし、今日の昼だけですよ」
明日の午後から出張なので当分本部には戻ってきませんから、と素っ気なく返せば、
黒衣の探偵は自分のそんな声色にも反して酷く嬉しそうに口元を綻ばせて。
ともすれば、予想通りとはいえ不本意にも相手を喜ばせてしまった事実に。
これは後々のための布石なのだ、と。
言い訳がましくも内心自分に言い聞かせてみたりする。
「それは残念。
今日の夕食と、ついでに明日の昼食の約束も取り付けておこうと思ったのに」
「"予約"までする気だったのかよ、龍さん…」
「ん? …ああ、そうか。
なら嬢の帰って来てから一番最初の食事に鴉城氏曰くの"予約"を入れて…」
「龍さんッ」
「………これは餌付けか何かの新手の罠でしょうか?」
「どうだろうね…。
しかしに関してはいっそすがすがしいくらいに貪欲ですよね、龍宮さんって」
浮かべた苦笑を心持ち隠すように、
ドライバーグローブを嵌めた手を口元へと運んだ氷姫宮さんに、
龍宮さんはといえば、心底心外そうな面持ちで。
「本当なら、龍宮は朝食だって嬢と御一緒したいんだがね」
なんて、聞き様によっても、よらなくとも。
そんな大胆この上ない、時間帯からしてよろしくない爆弾発言を、
良い意味でも悪い意味でも本当に期待を裏切らずに、
至極当然とでも言うような口調でさらりと言い放ってくれたりして。
「…そんなに私と食事をしてどうしようって言うんです?」
けれど。
次の一瞬、黒い影が自分のすぐ目の前まで移動してきていたと気付いた瞬間にはもう。
それはもう見事に打って変わって。
年不相応な無邪気さをたたえたその大きな瞳は、
子供は子供でも、どこか黒さを抱える悪戯っ子のようなそれへと色味を変えて。
かと思えばそのまま、含みのあるしっとりとした男の笑みを口元に敷いて。
「───…あわよくば嬢自身もいただこうかと、ね?」
低めの、わざととしか思えないような甘い声色でもって。
耳元へとそう、囁かれた。
セクハラです、龍宮さん。←火村にも同じようなこと言ってたな。
こちらはキリ番の8800hitsを踏んで下さったもへじ様へ。
リクエストは『龍宮さんに追いかけられてみよう!』とのことだったのですが、
折角リクが龍宮さんなのでどうせならと、『言葉で追いかけて』貰いました。
つーか龍宮さん、見事に腹黒い感が否めません(汗)
す、すみませんもへじさん…!!(滝汗)
私の中の龍宮さんは白のはずなのに…むむ。
こんな拙いSSですが、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
リクエストありがとうございました!