Where do I go from here ?


「お前、どこで気付いたんだよ?」


4人もの人間が次々と殺され、マスコミにも連続殺人事件と大きく報じられた今回の事件は、
JDC特別契約班所属のこの女、の登場により呆気無く解決された。


「何に?」


あわや迷宮入りかと思われたその事件の真相と言えば。
警察側が他殺と断定していた4人のうちの2人は自殺であり、
自分の思いも寄らない事情で起こった他人の死に、パニックを起こした犯人が、
自らを容疑から遠ざけるために、まるで他殺であるかのよう、
死体を装飾してしまったというある意味難解なものだった。


「どうして2人目と3人目が自殺だって判ったんだ?」


目的の無い殺人は実に扱い辛い。
動機の所在が外に漏れる事の無い自殺も同様だ。
目的が無いが故に、動機の追求が意味を成さず、付随して容疑者の絞り込みも困難を極める。
今回の事件もそうした理由で、ぐたぐたに煮詰まっていた警察側は、
これ以上の被害拡大は警察の威信に関わると踏んだのだろう、
ようやく重い腰を上げJDCへと協力を要請したのだった。
そしてその要請に応え、現場に着いていくらかの証言など確認して僅か2時間足らず。
ある種、嫌味とも取れる鮮やかさとスピードで真実を平然と提示してみせた
警察側の苦々しそうな面々を思い出すと、笑いを通り越して同情を禁じ得ない。

なぜなら。


「そんなの現場写真を見れば明らかでしょ」


多少思う所の違いがあっても、それは自分にも言える事だからだ。
今回の事件、親父に呼ばれ俺はの助手として同行した。
そして同じ書類を受け取り、同じ現場を検証し、同じ証言を確認した。
けれど、一方は真実を掴み、俺はといえばそれに手を伸ばす事すらもできなかった。

実力の差。

そんなもの今更に始まったことじゃない。
けれどそこにある距離はやはり雲と泥で。
毎度、ひたすら自分の未熟さを痛感する。


「『死人に口無し』。
 自殺なんて特にその人間の中だけで完結してしまうものなんだから、
 現場や死体の状況以外の他に一体何から確実な答えを導き出せるって言うのよ」
「………つまりはJDCで書類を受け取って、
 車での移動中に読んでいたその時にはもう既に看破してたって訳か」


仕事に関しては黒衣の先輩探偵とはまた違った意味で厳しく、容赦の無い
それはそれで救われている部分もかなりあるし、自分の事を考えてくれている事も判る。
だがやはり、どうしても卑屈になってしまう自分がいる。
これこそが自分の『未熟さ』であるという事は頭で判っていても、心が追い付いていかない。

そんな内に抱えたものをこれ以上外に出したくなくて、話を微妙にすり変えた。


「しかし、俺には理解できないな」
「……自殺の、理由?」


先程の事件。
自殺した二人のうち最初の、つまりは2番目に殺されたと思われていた女性は、
最初に殺された男性と恋人関係にあった。
そしてその彼女が自ら死を選んだ理由は、犯人が隠滅しきれなかった、
暗唱番号によってロックされた恋人の男性へのEメールという、
警察側の盲点をも突いた場所へと残っていた。

また、それは。


───俺がこの世界からいなくなる時には、一緒にいなくなってくれ。

貴方がそう望んだから
貴方がそう願ったから


だから彼の後を追った。
自らの命を絶ったという。


「───なら、蒼也はどうする?」
「は?」
「『私がいなくなる時には、一緒にいなくなって』」
「………」
「私がそう望んだら、願ったのなら…蒼也はどうする?」


何の感慨も込められていない、涼やかな声。





「『私が死んだら、後を追って』」





いつもと変わらない静かな口調。





「蒼也なら、私のために死んだりする?」





俺はどうするのだろう。

アイツが死んだら、やはり泣くだろう。
泣いて、そしてやはり泣くんだろう。
母親の時と同じ様に、泣いて自分を責めるかもしれない。

例えそれが自分の手の届く所で起こった事であっても、そうでもなくとも。
行き場の無い想いをぶちまけて。
俺はきっと底無しにみっともなく、声を上げて泣くんだろう。

けれど。


「考えるだけ無駄だろ、そんなもん」
「…そう、ね」


自分の返事にそう相槌を打って、儚げに俯き静かにその両瞼を伏せた


「勘違いすんなよ」
「………」
「あのな、お前がそう簡単にくたばる訳ないだろうが」
「………………そういえばそうね」


かと思えば今度は半眼で、心持ち不機嫌そうに横目で見やってきた。

極限られた一部の人間にしか見せない、また判らないような微かな表情の変化。
俺だけに時折覗かせる、感情の波。
本人にからすれば「そんなもの」やら「訳が判らない」と、
実は照れ隠しだったりするその怪訝そうな顔で一蹴されるんだろうが、
やはりこんなものも俺の幸せの一つだから。


「それに俺が死なせない」


おいそれと、他人にかっさらわれるつもりなどさらさら無いから。





「俺が守ってやる」





俺の全てで持って、しっかりと繋ぎ止めてやるよ。





「ありがちな台詞よね…」


そんな事を口にしながらも、そう宣言して掴んだ手をしっかりと握り返してくる
こういう声色の時は大概照れてたりするんだよな、コイツ。


「俺に関してはこれっきりだからな」
「そんな真顔でそう何度も同じ事言われたら身が保たないわよ…」


ほら、こうしてまた幸せが一つ増えていく。


「俺が守ってやる」


だから。


「守ってやる。だからずっと俺の傍に居ろ」


手を伸ばせば届くところに。
手を伸ばさずとも届くところに。


「大人しく、俺の1番近くに居ろ」










「大人しくしてる保証はできないけど」


返ってきたのは、そんな酷くらしい返事だった。



新年明けちまったようなのでとりあえずおめでとうございます、な本年初SS。
…こんな捻たヤツですが今年も宜しくお願いします。←嫌過ぎ。
年の初め一発目がJDC。余程好きらしいです、JDC。(笑)
そして、ちょっぴり『Dreaming as awekening.』とリンクしてます。