始まりは
終わりて
「この世には不思議でないことなど何も無いのだよ、」
濃密な闇が満ちる部屋。
「大佐、規律は守られて然るべきものと思われますが」
「名前で呼ぶなと、そういうことか?」
「………」
熱の留まらない空気。
「つれぬ事を言うな。お前は私の───」
「大佐」
脳内を巡る血液が僅かに熱を持った。
「私は生まれて此の方一度たりとも貴方を父と仰いだ事はございません」
また、心が冷めていく。
「自分が父と…父以上に仰ぐのは『あの男』だけと?」
『あの人』の存在に、脳の血脈が冷えた。
「くく…っ」
次いで指先が感覚を失くす。
「それもよかろう」
視界には嫌悪感すら厭わない男の薄い笑み。
「『この世には不思議なことなど何もない』のだったな、『あの男』曰く」
「大佐、御用が無いのでしたら私はこれで失礼致します」
空気に罅が入る。
「───実に面白くない」
世界ごと凍り付いた気がした。
「が、実に興味深い」
それでも、この肺は焼けつくような感情でもって酸素を繰り出し。
「お前もそう思うか?」
そして、凍てつくような心の臓は熱い脈を打つ。
「…少なくとも、私が貴方を父とみなせない事には『不思議なことなど何も』ありません」
「ほう。私からすれば『不思議でないことなど何も無い』のだがな。
それに、既にお前自身が…いや、やめておこう」
「───…っ」
耳を打つ、不快な男の嘲笑。
「己自身が一番良く判っているのだろうからな」
ああ、耳障りだ。
「まぁ、良い。下がれ」
もうこれ以上聞きたくない。
「准尉」
「───…っ!」
また同じ夢で目が覚める。
「…っ、また…」
繰り返し、繰り返し。
「ゆ、め…」
幾度も同じ映像で目を覚ます。
『この世には不思議でないことなど何もない』
父という名の、父という役割を持った男はそう言った。
『この世には不思議なことなど何もない』
父という名と、父という存在を否定した男はそう言った。
「先生───」
私は思うのです。
「この世には不思議であるか、そうでないもの以外など何もない…」
ついに手を出してしまったり京極堂。
ヒロイン堂島大佐の娘設定です。またどうしようもない設定ですな。
しかも彼女は堂島曰くの『不思議なもの』。
人よりもずっと緩やかに老化する特異体質の持ち主だったり。
どうしても堂島大佐を絡ませたく…つーか、そうでもしないと年齢が…(汗)←痛い本音。