被観察行為


彼女はその容貌同様、全てが整然としている。
筋道立った偏りの無い合理的な思考で彼女の存在そのものが維持されているからなのだろうと、
彼女と顔合わせた時間など全て足しても一週間にも満たないだろう自分などでもそう思う。

彼女の思考は、思考する技術は実に理想的だ。
人間が陥り易い思考の落とし穴といったものは尽く見切り、
偏見や先入観などからは脱却した位置に或る。
然るが故にその判断は常に冷静であり、客観的であり、論理的なのだ。
平々凡々で大衆に埋没することを至上とする自分とはまるで懸け離れた存在だろう。


「もしかせずとも、本島さんは御自分を凡人だとでも思ってらっしゃるんですか?」


控えめながらも、さも意外そうな口振りを披露した彼女。
僕が凡人でなければ一体何が凡人であるというのか。





「"あの人"に一度ならず関わっているというのに、凡人だなんて見苦しいこと甚だしいですよ」





まるで死の宣告にも等しい指摘。
実に冷静で客観的で論理的なそれに、反論できなかった自分を一体誰が責められるというのか。
否、きっと誰も責めまい。
というか、責めないでくれ。


「まぁ責めてくれる要員が今この場には居ませんからね」


読心術まで心得ているのか。
内心冷や汗をかいている自分を余所に、
薔薇十字探偵社の扉を押し開いた彼女は何とも紳士的な事に自分に先を譲ってくれた。


「本島さ〜ん…!」





彼女曰くの『責めてくれる要因』その1が、情けない顔で出迎えてくれた。



Web拍手お礼夢。
ちなみに『責めてくれる要因その1』は益田です。