「お疲れ様でーす」
「お、。お疲れさん」
「何だ、今日はもうあがりか?」
「はい」
「気ィ付けて帰れよー」
「また明日な」
「はーい!」
それは、不思議な少女だった。
『不思議』でなければ『影響力の有る』と、そう言い換えても良い。
他に類を見ない類いの人間だった。
格別に容姿が美しいわけではない。
賢く聡明ではあるが、殊更強調するほど明晰な頭脳でもない。
所謂『普通』、と。
何処にでもいるような少女、と。
そう括るのが最も相応しいその存在感。
自分とは無縁なその在り方故に確信はないが、
この少女は一つ一つがいちいちとても無垢なのだ。
酷く純粋なその『普通』という性質。
その純度故に特質性となり得るそれ。
それこそがこの少女を『普通』とし、
且つ『他に類を見ない』と自分をして言わしめる大きな理由なのだろう。
そうした少女が周囲に及ぼす影響というのは並々ならぬものがあった。
それはアイスバーグを始めとするガレーラの職人達は元より、
カクやカリファまでもが時折微かに危うさを覗かせるようになっていた。
由々しき事態ではあった。
しかしそれを口に出して指摘してみせることはなかった。
何故か。
「あ、ルッチさん。お疲れ様です」
気付けば自分も、僅かながらこの少女を"惜しんで"いる事実を否定し切れなかったからだ。
『クルッポー! お疲れだっポー!』
「ふふ、ハットリもお疲れ様」
危険な存在だった。
危険という単語など無縁な人間でありながら、それ故に危険な人間だった。
「あ、ハットリ。ネクタイ曲がってるよ?」
この少女は疑うことを知らぬ訳では決してない。
しかし最後まで信じることを諦めぬ少女だった。
来るべき結末を想像する。
我々が正体を明かした時、おそらくこの少女は悲しむのだろう。
その純粋さ故に、我々の事を信じることを最後の最後まで止められぬが故に涙するだろう。
「───…はい、これで大丈夫!」
間近にある無垢な笑みに、一抹の苦みなどを噛み締める己の未熟さが不愉快だった。
「それじゃあ、お先に失礼しますね」
「…ああ」
また今日も、太陽が地平線に沈む。
「また明日!」
また今日も、虚実が共に過去へと沈んだ。
それでも俺は。
もしもお前が任務の障害となる時が来たのなら。
あの二人が手を下せぬのならば、代わってお前の息の根を止めるだろう。
以前とった投票型アンケでルッチ夢をとのリクを頂いたので書いてみたり。
image music:【波紋】_ 椿屋四重奏.