過去を剥ぎ取り 次々捨つる
手には、GALLEYのロゴの入った白い帽子。
今し方まで自分が被っていたそれ。
あの少女と揃いだったそれ。


「………」


落とさなければ。
今し方、偽装用に拵えた血塗れの男の頭へと。


「………」


隣の男に勘繰られてはいけない。
この迷いを、惑いを悟られてはいけない。
早く捨てなければ。
今までのように。
そうだ、今までだってそうだったではないか。
任務遂行の度にこうして嘘で塗り固め重ねて作り上げた仮面を、
過去を剥ぎ取っては、次々と捨ててきたではないか。
この帽子とて同じことだ。
仮面だ。
いつものように脱ぎ捨てればいい。
脱ぎ捨てて、踏み躙ればいい。

───さあ、手を放せ。


「カク」
「…ああ」


渾身の力を振り絞って指を開く。
そっと離れていくそれ。
まるでコマ送りの映像。
宙に放たれ、重力に引き寄せられ、引力の後押しを受け。
真っ直ぐに眼下へと落ちていく白い帽子。
今し方自分がかぶっていたそれ。
あの少女と揃いだったそれ。


「行くぞ」





この無様な喪失感と辿々しい決別を道連れに、行き着く先がどうかお前の眼前でないように。



それが未練というものであることを、知り得ぬ男はただ強く目を瞑り。


image music:『道連れ』_ 椿屋四重奏.