移りゆく季節に身を任せながら
笑い泣く君が僕には欠かせないのさ
「もう1年か…」
「え?」
「ワハハ、本人が覚えておらんのか。
 お前さんがこの街に来て今日でちょうど1年じゃろう?」
「あ…」


お前と過ごした春は美しかった。
お前と過ごした夏は眩しかった。
お前と過ごした秋は切なかった。
お前と過ごした冬は温かかった。


「わぁ…、もう1年なんですね」
「ああ」


季節は輪を巡り、1つの円を描いた。
お前と過ごしたひととせ。
たったのひととせ。
気付けば、穏やかに笑い、時に静かに泣くお前が傍らにあることが日常となっていた。
今まで日常と呼べるような時間の流れなど無かった自分に、
そんな似通った日々を並べ集めた、平穏という感覚が芽生えたのだ。
ただお前と居たというだけで世界は鮮やかにその色彩を変えた。


「もう1年もカクさんと一緒に居るんですね…」
「短いようでな」
「何だかカクさんとはもっと長い時間一緒に居た気がします」
「…そうじゃな」


移り行く日々を零すまいと。
移り変わる日々に振払われまいと。
日々、お前を目で追って。
次第に笑い泣くお前無しでは日々を回せなくなって。

今では、お前の居ない日々に戻ること信じられぬようにすらなって。





「───今日からまた1年、どうぞよろしくお願いします!」





ああこのひととせを永遠に巡るものとすることができたのなら、ワシは。



願っても、夢の終わりはもうすぐそこに。


image music:【小春日和】_ 椿屋四重奏.