互いに春を 待ち切れず
「お前も不運だったな…」


そうだ、お前は不運だった。
不運で、そして不幸だったのだ。

この街になど流れ着かなければ良かった。
船大工になどならなければ良かった。
ワシらになど出会わなければ良かった。
さもすればお前は、平穏で、人並みかそれ以上に幸せな人生を送れたことだろう。
お前にはそれだけの素養があったし、価値もあった。
しかしお前は不運だった。
不運で、そして不幸だった。
だからこうして、こんな炎の中での不運で不幸な死に巡り会ってしまったのだ。


「大人しく下に居れば死なずに済んだものを」


そうだ、大人しく街の住人達と共に工場に居れば良かったのだ。
それをこの少女は、ワシの説得も無視して自ら火の中へと飛び込んで来た。
これを不運、不幸と言わずに何と言う。
"愚か"か。
それもまた然りだろう。


「目撃者を生かしてはおけないからな」


何よりも信じてはならぬワシらを心からなど信じてしまったのだから。


「短い付き合いだったな」


1年。
1年と13日だった。
この不運で不幸で愚かな少女と出会い過ごした378日。
それは5年前から今日この日へと繋げるための予定調和の一部。
そんな予定調和の中、出会ったのは夏。
夏を仰ぎ、秋をくぐり、冬を越し、春を喜び。
時は巡ってまた夏を迎えた。
今日というこの日を引き寄せた。





『───今日からまた1年、どうぞよろしくお願いします!』





互いに春を、待ち切れず。



それでもこの心は、二度と迎えることのない春を待ちわびる。


image music:【導火線】_ 椿屋四重奏.