─── 赤 い 水 面 に 白 い 花 … ? ───
─── 違 う 、こ れ は … ───
「───ッ!!」
目を醒ませば其処は、くすんだ色合いの自分の部屋だった。
「はぁ…ッ、…夢、か…」
荒らいだ呼吸。
玉の汗を浮かべる額。
脂汗を握る掌。
「……いや、正夢か…?」
おかしなものだった。
赤い水面に、白い花。
赤いそれが血溜まりで、其処に倒れている白い塊がだと、
夢の中の自分はそれを理解するのに間抜けにも数秒を要していた。
「…お前がやったんだろうに」
本気でおかしく思えて、冷えた胃の底から笑いが込み上げてくる。
くつくつと喉が鳴る。
起き抜けの乾いた粘膜が張り付き不快ではあったが、止まらなかった。
他人のものであるかのように自分の声を聞く。
まるで道化だ、これでは。
止まらない笑い声と、止める気の無い自分に、
とうとう壊れたかと乖離した更なる自分がそんなどうでも良いことをぼんやりと思う。
「ん…?」
電話が無機質な音を立てて鳴り喚いた。
反射的に手を伸ばす。
受話器の上に手を置き、深呼吸を一つ。
軽く頭を一振りし、脳を覆った湿った靄を払った。
「もしもし」
『おはようございます、カクさん』
「───…」
『カクさん?』
「……ああ」
『あ、すみません…もしかして起こしちゃいました?』
「いや、何じゃ?」
出てみれば、夢の中で殺したはずの本人からの電話。
柄にも無く声が上擦りかけて何とか飲み込む。
『はい。さっき、カクさんが担当してるお客様がドックにいらして、
搬入期日を5日繰り上げて欲しいって言ってるんですよ…』
「ああ、一昨日受けた海賊船の…───5日もか?」
『はい…』
「こりゃ、また一悶着起きそうじゃな…」
話しながら徐々に声の高さも、調子も普段のそれに整える。
コップ1杯の水が欲しいとも思ったが、
夢に魘され疲労した身体は立ち上がることを拒否した。
『あの…、カクさん』
「何じゃ?」
そう、夢なのだ、
夢など睡眠下の幻覚体験に過ぎないのだ。
『何か悪い夢でもみました?』
そしてそれはおそらく、この塗り重ね固めた嘘偽りの成れの果て。
「───…いいや?」
何たる不実。
それこそ罪深い。
『そうですか…すみません、差し出がましい事を言って』
「いや、こっちこそ心配させてすまんな」
『いいえ』
執拗に繰り返す正夢。
度重なる過ちの、成れの果て。
『それじゃあ待ってますね』
「ああ」
とめどない赤い夢の成すがままにも自分は今夜もまたお前を殺すのだろうか。
というワケで。
椿屋四重奏の曲をモチーフにワンピしてみようという自分的企画発動。
どこまで続くかは不明。(オイ)
切ない感じ全開でいくつもりでーす。
image music:【成れの果て】_ 椿屋四重奏.