「でなければお前は一体何を信じていたというんじゃ?」
どうして、と。
問うてもきっと貴方は瞬き一つしないのでしょう。
真上から私を見下ろす貴方の瞳。
それはまるで熱を失って曇る硝子玉。
常に、誰よりも傍で温かく見守ってくれていたそれとは似ても似つかぬ冷めた色。
おそらく涙で汚れ切っているだろう私の顔さえ映さない、虚無の温度。
「お前さんが勝手にそういうものと思い込んでいただけじゃろう」
そう、私は。
幸せな日々がこれからもずっと続くものだと思っていた。
煌めく水の都で、眩しい陽の光の下、優しい人達に囲まれて、
温かなこの世界で自分はこれからも生きていくのだと信じていた。
貴方の存在する未来を疑いもしなかった。
「どちらかで何が変わるでもない。
受容でも拒絶でも、好きな方を選ぶといい」
ああ。
何もかもを夢であったとして、このまま我ごと忘れてしまえれば。
目の前の何もかもを否定して。
この呼吸も、鼓動も、涙も全てを無かったものとすれば。
あの幸せな日々を取り戻すことができるのでしょうか。
「大人しく死ぬか、抗って殺されるか。
お前さんが辿るのはそのどちらかじゃ」
何も感じなくなれば。
この痛みも消えるのでしょうか。
『私もアイスバーグさんの傍に…!』
『…お前さんの気持ちは判るがな、。
此処はワシらに任せておくんじゃ』
『でも…!』
『』
『…っ』
『お前さんはドッグ内に避難している街の者達に飛び火が移らんよう守れと、
アイスバーグさんから直々にそう言い付かったんじゃろう?』
『…はい』
『アイスバーグさんはお前さんを危険な目に遭わせたくないんじゃ』
『判ってます……私が、弱いから…』
『それは違う』
『だってそうです…っ、私が、私が弱いから…』
『違う』
それとも、これは。
『今お前さんを傍に置かないのは、、お前さんが大切だからこそじゃ』
これは、あの時見せた貴方の"惑い"に。
『───…ワシらも、お前さんに傷付いて欲しくはないからな』
手を伸ばせなかった私への報いなのでしょうか。
今お前を傍に置かないのは、この手でお前を傷付けたくはないからだ。
image music:【硝子玉】_ 椿屋四重奏.