「ー!」
「あ、ちゃん」
「お昼行こう!」
「うん!」
真っ青な空の下、青空も顔負けな笑顔を零したのは。
とはガレーラ職人の紅一点ならぬ、紅二点の大親友だ。
(パウリーは『お前が紅?』とかぬかしやがったから破廉恥にシメといたけどね!)
今日も今日とてお昼を誘いに来れば、二つ返事でOKが返ってくる。
フフフ、周囲から浴びせられる羨望の眼差しが心地良いわ!(ビバ、女の友情!)
「お、二人で昼か?」
「! カクさん」
「そうよー。
そうだ、カクも一緒に行く?」
「行きましょうよ、カクさん」
「そうじゃな…それじゃ一緒させて貰うかの」
「はい!」
「よーし。それじゃ早速お昼へゴーよ!」
そんなこんなで、ちょうど2番ドッグから戻って来たらしいカクと合流し、
前々から2人で「今度行ってみようね」と話していたカフェへと向かうことに決めた。
サーモンが美味なクラブハウスサンドイッチが絶品と最近専らの噂の店だ。
途中、「お、俺も…」と小さく挙手して姿を現したパウリーと出会したり、
「はい却下」「何でだよ!」「昼飯たかろうって魂胆でしょ?」「う"…!」
「私はおごらないし、にもおごらせないわよ」「ぐッ」
「また次の機会にな、パウリー」「チクショー…!」なんて、
そんな毎度懲りずなイベントをこなしながら辿り着いた1番ドッグのゲート。
すると。
「あ、ルッチだ」
ゲートを開いてドッグへと入って来たのはネクタイ鳩を肩に乗せた男、ルッチだった。
『クルッポー! 揃いでどうした?』
「お疲れ様です、ルッチさん。
今からちゃんとカクさんと、お昼ご飯を食べに行くんですよ」
『ああ…、もうそんな時間かっポー』
「ルッチさんも一緒にどうですか?」
『……俺もか…?』
「たまにはいいじゃろう」
「そうよそうよ。
ルッチが普段何食べて生きてるか気になるしねー!」
『………』
「あ、もしかしてまだお仕事とか残ってます?」
『いや、無いが…』
「そんじゃ決まりね!」
『………』
「諦めいて、ルッチ。
どうせお前もワシも、いや1番ドッグの職人の誰一人とて、
とのタッグには適わんのじゃ」
3人掛かりで口説き倒せば、さしものルッチも折れるというもので。
無言でこそあったけれど小さく鼻で溜め息を一つ、再び進行方向をゲートの外へと戻した。
「ルッチ、ゲットだぜ!」ととハイタッチで掌を鳴らす。
それを見てくつくつと喉を鳴らして笑ったカクに、
ルッチは器用にも片眉を吊り上げて半眼にもむっつりと視線を注いでいた。
「そういえば、。
今週は特に頑張ったようじゃな」
「え?」
「間に合わんとばかり思ってたと依頼主が随分喜んどったからな。
まぁ依頼主以上にカリファの方が喜んどるようじゃったが…」
「えへへ…」
自分とルッチの数歩前を歩く2人。
道幅と人のながれ、会話の流れから自然と2と2に別れて歩くことになったのだけど。
揃いのGALLEYのロゴ入り帽子の上からの頭をゆったりと撫でたカク。
撫でられ嬉しそうに笑う。
端からすれば仲の良い兄妹にも見えなくもないのだが。
考えて、思いもがけずカクの苦心が忍ばれてしまって苦笑が零れた。
「いいなぁ」
『何がだっポー』
「いや、前の二人」
とカク。
二人は所謂師弟という関係だ。
船大工の指導を通して優しく、時に厳しくの面倒をみてきたのがカクで、
はそんなカクにとても懐き慕っていた。
社長をして『親鳥と雛』と言わしめる二人のやりとりは見ていてとても微笑ましく思う。
(カクとしては歯痒い部分も多々あるんだろうけど)
「何かすっごく師弟って感じがするじゃない?」
考えてみれば、私も一応ガレーラに入ってからずっとルッチに指導して貰ってるわけで。
言ってみれば、私にとってルッチは師に当たるわけで。
(向こうが私のことを弟子と思ってるかは甚だ疑問だけどね…)
全く誉められないわけじゃない。
上手く出来ればどうしてそれが上手くいったのかの理由をきちんと説明してくれるし、
失敗すればどうしてそれが失敗したのかを淡々とだけれど、
私が理解するまでしっかりと説明してくれる、
出来るようになるまで根気良く付き合ってくれる。
けれど、あんな風に頭を撫でられたりしたことは一度も無い。
それに不満があるわけじゃない。
でも。
「いいなぁ」
2人を見ていると本当にこっちまでくすぐったくなるから。
自分だけでなく、他の人間の目にもああして微笑ましく映る2人を、
どうしたって羨ましく思ってしまうのだ。
私も、と。
私とルッチもあんな風に在れたら、なんて。
「───これで満足か?」
低く滑らかな男の声と共に、温かく心地良い重みが頭の上へと乗せられた。
「………」
「……オイ」
「の…」
「…『の』?」
「───のわあぁぁあぁ!?」
「! ちゃん!?」
頭の中が真っ白というのはそうかこういう状態を指すのか。
いや、驚きの白さだ。
どこぞの漂白剤もびっくりの白さだったよ、私の頭の中。
これまたびっくりするほど色気の無い悲鳴に、
弾かれたように振り返ったが心配げそうに駆け寄って来る。
ああ、カクなんかただでさえ丸い目を見開いて更に真ん丸くしてるよ。
ついでに言えば馴れ親しんだ街の皆さんの視線も痛いことこの上無い。
「どうしたのちゃん!?」
「ル…」
「『る』?」
「ルルル…」
「『るるる』?」
「───ルッチが変ッ!!」
「ルッチさんが……え?」
「ぷっ!」
ズビシッと腕を振り下ろしてルッチを指差せば、
無遠慮にも吹き出し口を手で覆ったのはカク。
一方はと言えば、頭上にいくつも疑問符を飛ばしている。
いわずもがな、当のルッチは常から不機嫌そうな顔を更に不愉快そうに顰めた。
私はといえばきっと真っ赤な金魚のように口をぱくぱくと無駄に開閉しているんだろう。
「くく…っ、変とはまた随分じゃなあ、ルッチ?」
「………」
薄らと涙目で両肩を震わすカクのそんなフォローにもならないフォローに、
ルッチは無言で私の頭のてっぺんへと乗せたその手を撤去しようとする。
ああ、こんな顔もするんだ。
初めて見る、何か渋い物でも口の中に含んだようなその表情。
ふっと消えいく甘やかな重み、温度。
離れていく乾いた大きな掌。
お願い、待って。
「───や…っ」
気付けば咄嗟にもルッチの手を引っ掴み引き寄せてなどいるこの両手。
「………」
「………」
「………」
「…………あ」
驚きの白さ、再び。
本日も二度目ともなれば現実復帰にもさほど時間を要しなかったが、
しかし我に返った時には、もはや時既に遅し。
ルッチの手は自分の頬横にあるし、自分の指はがっちりとルッチの手を掴んでる。
どうしよう。
どうしようもない。
自問に対する自答は思いの外迅速だった。
(そんな迅速さはいらない)(いらな過ぎるから)
取った手を、逞しい腕を、肩をと順々に辿って恐る恐る見上げる。
そこにあったのはやはりルッチの顔。
ただ静かにこちらを見下ろしてくる黒い瞳。
居たたまれない。
もの凄ーく居たたまれない。
脳みそも普段は使わない部分までフル回転させるが、
状況を打破できるような妙案は思い浮かばず、
むしろ逆効果にもじわりじわりと混乱が押し寄せてきた。
(どうする!?
どうするよ私…!!)
しかしそんな居心地の悪い沈黙を打ち破ってくれたのは、
今この場で1番状況の飲み込めているらしいカクだった。
「(どっかのクレジットカードネタを拝借してる場合じゃないー!!)」
「………」
「」
「はい?」
「ワシらは先に行って並んどくとするか」
「え? …───わっ!」
言うなり、軽々とを持ち上げ横抱きにしたカク。
「カ、カクさん!?」と赤くなって慌てふためくを余所に、
こちらへと、自分とルッチへと向かってひとつニコリと笑うとカクは言った。
「…オイ、カク」
「ワシらは先に行って列んで席を取っとくからな」
お前さん達は後からゆっくり来るといい。
言うだけ言ってカクは、タンッとを抱えて屋根の上へと消えてしまった。
要らない。
そんな気遣いは要らない。
何もこんなところで日頃の応援の礼を返してくれなくていい。
(しかも自分もちゃっかり美味しいトコ持ってってるしねあの男!)
「………(唖然)」
「…オイ」
「へぁ!? な、なんざんしょうか!」
「アレはさすがに無理だぞ」
「え?」
「山風が望みならカクに頼め」
「あ、ああ…うん、そりゃまぁ無理でしょうよ」
自分利き手を拘束されたままにも、常と変わり映えの無い顔で淡々とルッチは言う。
お姫さまダッコで山風体験☆に憧れないと言ったら嘘になるが、
いくらカクとが羨ましいとはいえ、ルッチにそれを求める気は無い。
何もカクとと全く同じことがしたいわけじゃないのだ。
ただ、カクとのように師弟で微笑ましい構図を、
ルッチと描いてみたいなぁなんてウッカリ高望みしてみただけの話で。
「へ?」
そう、これはただの私の高望みだったはずで。
「───行くぞ」
ぐっとこの手を繋ぎ取った掌は、つい先程自分の頭を撫でた大きな掌は。
固く乾いていて触り心地こそ良くなかったけど、とても温かかった。
日記絵でウチの娘を描いて下さった羽依さんへのお礼夢。
もうあの絵、一生の宝にしますから! 墓の下まで持って行きますから!(笑)
今回の夢はウチの娘と羽依さんのところの娘さんの共演夢なわけですが、
書いててめっさ楽しかったですv
こんなストーカーもイイトコな私ですが、娘共々これからも仲良くしてやって貰えれば嬉しいです!
image music:【ワルツ】_ スネオヘアー.
後日。
羽依サンから素敵夢絵を頂いてしまいましたー!!(自慢全開)