10.


「ちょっと査定に行ってきまーす」


1番ドックに響いた、軽やかな声。
それはガレーラ・カンパニーただ一人の女職人であり、
またガレーラの職人達からは娘や妹のように可愛がられている少女の声だった。


「おう、行って来い」
「ちゃっちゃと終わらせて来いよー」
「はーい」
『クルッポー! パウリーが寂しがるからな』
「誰が寂しがるだとコラァ!?」
「あはは、了解です」


ともすれば、そんな職人同士のほのぼのとしたやりとりもしばしば。
以前は完全な男所帯の職場であった1番ドックからすれば、
"ほのぼの"などという単語など到底考えの及ぶものではなかったが、
が生み出すそうした和やかな空気を、職人達は皆良い傾向と捉えていた。



「はい?」


耳慣れた声に名を呼ばれて振り返れば、来い来いと指で拱かれる。
それに素直に答えてはパタパタと歩み寄った。
珍しくも現場で書類を捲って職人達に指示を出していたカクの元へ。


「どれぐらいかかりそうじゃ?」
「そうですね…船自体はもうドック内に移動済みなので、20分ぐらいですか」
「そうか」


とカク。
二人は、言ってみれば師弟のような関係にある。
がガレーラ・カンパニーへと就職してから半年、
船大工の基礎をみっちりと学んだのがカクの元だったからだ。
本人の手先の器用さもあって、それから他の職長達の元でも一通り学んだが、
しかしやはり彼女が一番懐いているのはカクで。
だからこそ、気付けば揃って並んでいることの多い二人。
一部を除く周囲にそれは、とても微笑ましい光景と映っていた。


「…10分」
「え?」
「10分で戻って来い」
「10分、ですか?」


10分。
要するに、半分の時間で査定を終わらせて来いということである。

これまた珍しいカクの突然の物言い。
何か予定の押してる仕事があるのかな、などと思索しつつ、
ことりと小首を傾げれば、「違う」と言ってカクは笑った。





「10分で戻って来たら、昼を奢っちゃろう」
「!」





これでもし彼女が犬か猫であったら。
耳をピーンと立て、尻尾を左右に大きく振っていたことだろう。





「10分で戻って来ますから、待ってて下さいね!」


半身振り返りながら走り出したの顔は、まるで真昼の月のようだった。





「堂々と抜け駆けしやがって…」
「さて、何のことやら。見当も付かん」
「コノヤロ…!」



【船大工ラバーさんに10のお題】10:10分

ヒロインにはコーギーのようなイメージが。
ちなみにヒロインのイメージソングは坂本真綾の『マメシバ』。

このSSはいつも船大工夢にありがたい一言を頂いてるスウさんへ。
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